(筆洗)EU離脱を選択した英国の国民投票への皮肉 - 東京新聞(2016年6月26日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016062602000117.html
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足を高々と上げながら歩く男がそのまま、崖から転落していく。米雑誌「ニューヨーカー」の最新号の表紙にそんな不思議なイラストが描かれていた。もちろんEU離脱を選択した英国の国民投票への皮肉である。
うまい題材で、この崖から平然と落ちていく男は、英国のコメディー集団モンティ・パイソンによる有名なスケッチ(ギャグ)の「バカ歩き省」の官僚。EU離脱の選択を気付かぬまま死に向かう歩き方とこき下ろしている。
もっとも、EU離脱を支持する人びとには、この種の皮肉や警告もまったく効果がなかったのは確かだ。今回の投票結果を残留派による「プロジェクト・フィアー」(恐怖作戦)の失敗とする分析が英メディアなどに出ている。
EUから離脱すればGDPは降下し失業率は悪化する。英国は貧乏になる。日本人が聞いても震える警告だが、離脱派にはそれが怖くない。
なぜならその恐怖は自分たちの生活を顧みることのなかったエリートという敵の宣伝にしか聞こえぬから信じるはずがない。異なる意見への不信。敵意。英国の分裂はそこまで悪化していたか。離脱派には移民に職を奪われるという恐怖の方が排外的であろうと現実的に聞こえてしまう。
さて、「バカ歩き」の行進は欧州全土や米国へ。日本? 互いに聞く耳持たぬ意見対立という意味ならばとうに始まっているか。脅しではなく。