参院選きょう公示 責任ある未来像を語れ - 毎日新聞(2016年6月22日)

http://mainichi.jp/articles/20160622/ddm/005/070/042000c
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参院選がきょう公示される。安倍晋三首相による3年半にわたる政権運営に対し、有権者が評価を下す選挙だ。
消費税率引き上げの再延期で揺れる社会保障の将来像など、政党が中長期的な課題で責任あるビジョンを示せるかが試される。同時に選挙結果は首相が実現を目指す憲法改正の行方にも大きく影響する。国の針路を左右する審判だと捉えたい。
参院選の直前、首相は消費増税の再延期を決めた。国民に約束していた来春の引き上げ方針を覆し、「新しい判断」だとして海外の経済状況を理由に2年半先送りした。

本当の国民の利益とは

この判断が今回の選挙で大きなポイントになっている。首相はその是非を仰ぐとしている。消費増税の延期を理由に衆院を解散した2014年衆院選パターンの繰り返しだ。
増税の先送りは短期的には国民にとって負担軽減だ。来春の引き上げは野党もそろって反対している。
だが、政権与党が2度にわたり増税を延期した事実はより重い。
社会保障の拡充にあてるはずだった約1兆4500億円の財源が失われた。しかも、19年10月に引き上げるという首相の再約束が守られる保証はない。人口減少や超高齢化に備える税と社会保障の一体改革の枠組みが崩れかねない局面だ。

だからこそ、政党がどこまで将来に責任を持った公約を掲げているかが厳しく吟味されるべきだ。
自民党は「成長と分配の好循環」を掲げる。だが、肝心の成長戦略は思い通りの成果をあげていない。
増税先送りに伴う減収分は「赤字国債に頼らず安定財源を確保」と説明するが、当面は税収増頼みというのではこころもとない。減収に伴い社会保障拡充策の何を後回しにするかも首相は明確にしていない。「すべてを行うことはできない」と述べるにとどまっている。
野党、民進党はどうか。「分配と成長の両立」を強調し、保育士給与の月額5万円アップなどを公約に盛り込んだが、施策には財源の不安がつきまとう。増税を先送りしても予定通りに社会保障は拡充し、財源は行政改革で生み出すと主張する。足りなければ借金の赤字国債でまかなうというのでは説得力に乏しい。
与野党が学生への給付型奨学金の検討や子育て支援など、格差是正や女性、若い世代に政策をシフトさせようとしている方向は正しい。
ただ、国と地方の借金が1000兆円を超すうえ、医療や介護の支出は増えていくのが現実だ。痛みを先送りするほど将来の不利益は増す。持続可能な社会保障の全体像を各党はより踏み込んで示すべきだろう。

国の将来にかかわるテーマに改憲問題がある。

衆院に続き、参院でも自民党を中心とする改憲派の勢力が改正案の発議に必要な3分の2以上の多数を制するかが焦点だ。今回の参院選は、従来にも増して改憲問題の行方に直結する。
ところが自民は公約で「国民合意の形成に努め、実現を目指す」などとあっさりふれただけだ。首相は次の国会で具体的に議論するとしている。きのうの日本記者クラブ党首討論でも「(改憲を)決めるのは国民投票だ」との理屈で争点化に慎重な姿勢を示した。 ◇憲法の議論を避けるな
だが、改憲案を発議するのは国会だ。その国会の構成員を選ぶ選挙である以上、首相の説明はおかしい。選挙に不利だから争点にせず、発議に必要な議員の数は確保しておこうというのだろうか。
安倍政権はこれまでも選挙で経済政策を争点として強調し、集団的自衛権行使を容認する憲法解釈の変更や特定秘密保護法などの基本政策の転換を正面から提起してこなかった。自らの政権で改憲を目指すのに、首相が中身について語らないというのでは筋が通らない。
首相は自民、公明両党で改選議席過半数(61議席)の獲得を目標に掲げる。自民が57議席以上を得れば1989年以来、27年ぶりに参院での単独過半数を回復することになる。
野党側は共闘で対抗している。民進、共産、社民、生活4党が32ある1人区すべてで候補を統一し、自民候補と対決する。「自民1強」をより強めるか、それともブレーキをかけるのかの構図は明確になった。
4野党は「改憲派3分の2阻止」や安全保障関連法の廃止を共通目標に掲げる。ただ、憲法観や安全保障をめぐりそれぞれの主張にはかなりの違いがある。共闘を優先するあまり、踏み込んだ政策論争を避けるようなことがあってはならない。

近年の国政選挙では投票率の低下傾向が深刻化している。

政権批判票が行き場を失っていることや、政治全体への不信感の表れだろう。だが、有権者が政治を人ごとのように感じて距離を置いては、民主主義は正常に機能しない。
参院選公示とともに選挙権年齢が「18歳以上」に引き下げられる。約240万人の新有権者の政治参加が期待される。
未来に責任を持てる政党や候補を選ぶ時だ。18日間の舌戦にじっくりと耳を傾けたい。