(余録)「そのこはとおくにいる… - 毎日新聞(2016年6月19日)

http://mainichi.jp/articles/20160619/ddm/001/070/136000c
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そのこはとおくにいる
そのこはぼくのともだちじゃない
でもぼくはしってる
ぼくがともだちとあそんでいるとき
そのこがひとりではたらいているのを

谷川俊太郎(たにかわしゅんたろう)さんの詩「そのこ」の書き出しだ。「そのこ」は、西アフリカのガーナで朝から晩まで働いている。チョコレートの原料となるカカオの木に登り、ナタを振るって実を落とす危険な仕事だ。「ぼく」は会ったこともなく、名前も知らない。
児童労働をなくす活動を支援する谷川さんが詩にし、塚本やすしさんが絵をつけて、5年前に絵本(晶文社刊)となった。本の中の「そのこ」は最初から最後まで後ろ姿しか見せない。いつも重い荷物を頭上に掲げている。どんな表情なのか、わからない。
1億6800万人の子どもが働かされているという。世界の5〜17歳の人口の1割以上になる。奴隷状態にある子どもを助け出したり、地域や家庭に子どもを働かす問題や教育の大切さをわかってもらったり、各国のさまざまな団体の地道な活動で少しずつ減ってはいる。だが、歩みは遅い。
詩はこう締めくくられている。

ちきゅうのうえにはりめぐらされた
おかねのくものすにとらえられて
ちょうちょのようにそのこはもがいている
そのこのみらいのためになにができるか
だれかぼくにおしえてほしい

安い労働力に支えられた、安価な製品を求めたがる先進国の消費者がクモの正体かもしれない。ならば、できることを「ぼく」に教え、歩みを速めるのは「わたしたち」大人の役目である。国連は、向こう10年で児童労働を根絶させる目標を掲げる。時間は多くない。

そのこ

そのこ