(筆洗)「暗い言葉」は気分の悪い選挙戦に向かう - 東京新聞(2016年6月15日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016061502000129.html
http://megalodon.jp/2016-0615-0913-50/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016061502000129.html

<気をつけよう、暗い言葉と甘い道>。うん?と目を留めた方は注意深い方である。
安全標語の「甘い言葉と暗い道」とはちょっと違う。思想家の内田樹さんはこの「暗い言葉」の方を自らを戒める標語としているそうだ。
社会は一気には良くならぬ。「ろくでもない世界」の中で自分の周囲に「気分のいい世界」をこしらえれば、いつかは別の「気分のいい世界」「気分のいいやつら」と出会い、拡大していく。遠回りしているように見えても結局、それが公正で人間的な社会につながるという考え方。したがって「『暗い言葉』を語る人間にはついてゆかない方がいい」(『邪悪なものの鎮め方』)と書いている。
同じ<気をつけよう>の言葉遊びにしても、こっちはかなり攻撃的である。<気をつけよう、甘い言葉と民進党>。作者は無論、安倍首相である。最近の街頭演説で拾った。
参院選共産党と協力する民進党をあてこすり、国民への警戒を大げさに呼びかける。野党側は、「時代遅れのレッテル」と反論するが、首相にはやはり悪口の才があろう。消費税増税の見送りや一億総活躍社会など自分の甘い言葉はさておき、政策レースであるべき選挙を語呂良き標語で、自民党か不気味な「野合」かの構図に置き換えてしまう。
かくして選挙戦は毎度おなじみ中傷合戦へ。その「暗い言葉」は気分の悪い選挙戦に向かう。