<主権者教育>「政治的中立」確保に苦慮…高校教員100人 - 毎日新聞(2016年6月9日)

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毎日新聞が公民科や主権者教育を担当する47都道府県の高校教員100人にアンケートしたところ、約6割が主権者教育の担い手になることを「前向きに受け止めている」とする一方、文部科学省が授業に求めている「政治的中立」について、確保できるかどうか不安や戸惑いを感じていることが分かった。国政選挙では今夏の参院選から18歳選挙権が実現するが、主権者教育の担い手の多くが政治的中立を巡って悩む姿が浮かんだ。【まとめ・高木香奈、伊澤拓也】
5月下旬〜6月上旬、男性52人、女性48人に選択と自由回答の設問で聞いた。年齢は▽20代13人▽30代19人▽40代32人▽50代34人▽60代2人。勤務先は公立81人、私立19人。
選択の設問では、主権者教育の担い手になることについて、58人が「前向きに受け止めている」と答えた。一方、18人が「戸惑っている」、8人が「負担に感じている」を選んだ。
政治的中立を確保できるかどうか、不安や戸惑いを感じることがあるかを聞いた設問には64人が「感じている」と答え、「感じていない」の36人を上回った。
自民党が政治的中立を逸脱した教員に対する罰則を検討していることについては、67人が反対し、賛成はわずか5人。25人が「分からない」とした。
これまでに主権者教育にあたる授業を「した」と答えたのは63人で、「していない」は36人だった。「していない」理由は▽多忙=10人▽他の授業を優先=6人▽適当な教材が見つからない=1人−−などだった。

文科省方針に戸惑い 自分の意見出さずに教えられるのか
文科省総務省が昨年9月に公表した主権者教育の指導資料は、政治的中立を維持しながら教えるため、議論の過程を重視し、多様な見解の提示を求め「教員は中立で公正な立場で指導することが必要」と定めている。また、教員が特定の見解を自分の考えとして述べることを避けるよう求めた。
アンケートの自由回答には、こうした文科省の方針に対する戸惑いや不安、懸念がみえる。
宮城県の男性教諭は「完璧に政治的中立を確保して授業をしたとしても、中立でないととらえる地域の人や保護者がいるかもしれない。そういう指摘を受けた場合、教員の立場は弱い」と明かした。
鹿児島県の男性教諭は「中立を心がけたいが、人間として生徒と相対する時、自分の意見を全く出さずに教えられるか。ただ、意見を言って保護者や周囲から何か言われないか不安に思う」とした。
三重県の女性教諭は「生徒に『先生はどう考えるの』と聞かれた時に何をどこまで答えていいのか。自分の考えを言わない大人を生徒がどう思うだろうかと考えると、何が最も教育的と言えるのか悩んでしまう」と答えた。
憲法や沖縄の基地問題など国論を二分するテーマの取り扱いが難しい」と答えたのは宮崎県の男性教諭。「生徒と議論するために自分の意見を言うことがあったが、自粛することになるかもしれない」とした。
一方、自民党が検討している、政治的中立から逸脱した教員に対する罰則については、「反対」と答えた教員の多数が「萎縮」を理由に挙げた。
栃木県の男性教諭は「罰則があると思うと授業がしづらくなる」、秋田県の男性教諭は「罰則があるなら教える側になりたくない。政治に関わる部分には触れたくないと思うようになる」。
政府に対する不信感もみえる。愛知県の女性教諭は「中立の定義があいまいで、政府の言う通りに話さなければ罰則を受けるのではないかと不安になる」とした。「今の政府だと、政府の考えが政治的中立だと言いかねない。こんな状況で罰則を科せられれば、自由な教育はできない」と答えた教諭もいた。

【ことば】主権者教育
有権者としての意識を高めるための知識や判断力を育むことを目的とする教育。選挙権年齢の18歳以上への引き下げを受け、文部科学省は昨年9月、主権者教育を充実させるために総務省と副教材を作成し、各学校がこれまで自主的に取り組んできた政策討論や模擬選挙などの積極活用を求めた。高校の新科目として「公共(仮称)」を創設することも検討している。