(筆洗)原宿駅原宿駅原宿駅原宿駅 - 東京新聞(2016年6月8日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016060802000128.html
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<東京東京東京東京東京東京東京東京東京東京東京東京東京(中略)書けば書くほど恋しくなる>。お経のような「東京」への祈りの文字が原文では三十五個並んでいる。青森出身の劇作家、寺山修司。少年時代の東京に向けた、痛切な思いである(『誰か故郷を想はざる』)
<私は人知れず、「東京」という字を落書きするようになった。仏壇のうらや、学校の机の蓋(ふた)、そして馬小屋にまで「東京」と書くことが私のまじないになったのだ>
<東京東京東京>。切ない気分になるのは東京に実家がある方よりもわが身を含め、地方出身者の方かもしれない。東京。その言葉に隠れるのは華やかな夢か、ほろ苦い現実か。
息苦しいほどの「東京」の羅列を思い出したのは山手線のある駅の建て替えが検討されていると聞いたせいである。JR原宿駅。大正期に完成した駅舎は、もはや手狭となり、四年後の東京五輪に対応できないということらしい。
童話に出てきそうな木組み風の駅舎。高度成長期、集団就職の列車で上京した人には東京の玄関は上野駅だが、一九八〇年代の地方出身の若者を「おいでよ」と誘った、「おとぎの国」の入り口は原宿駅ではなかったか。
東京の街並みは、明治以降、変化し続けている。それが東京である。空襲にも勝った駅舎も変化の波にのまれるのか。<原宿駅原宿駅原宿駅原宿駅>である。