(筆洗)<自分が悪い場合でも謝らなくても済む方法>というテレビ番組 - 東京新聞(2016年6月2日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016060202000140.html
http://megalodon.jp/2016-0602-1358-36/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016060202000140.html

昨日の夕方に<自分が悪い場合でも謝らなくても済む方法>というテレビ番組の放送があると聞いて、首を長くしてその時間を待った。
失敗しない人間はいない。それでも謝らなくてもよいとは何とも魅力的な番組ではないか。会社でつまらぬミスをしては上司に叱責(しっせき)される。家庭において生ごみを出し忘れ、妻にうんざりされる。この技術を覚えれば、謝る日々とはおさらばである。
こんな場合を例にその方法を教えていた。絶対にやると言っていた約束を一方的に破る場合の対応である。耳を疑った。そんな場合に謝らないで済む方法などあるはずがない。
ところがである。その方法はあった。講師によると、まずは絶対に「約束を破った」と認めてはならないという。約束を破るのではなく、新しい判断とか、異なる判断をすると言い換える。なるほど間違いを認めなければ、謝る必要もない。
もし約束を守れば、世界の破滅が待っていると恐怖を煽(あお)るのも相手を納得させる効果があるそうだ。世界のリーダーや立派な学者も自分を支持していると加えることもお忘れなく。決めぜりふは「どっちが正しいか、町の意見を聞いてみよう」。これで、そもそも約束を破ったという事実を完全にけむに巻ける。謝らずに済む。
素晴らしい技術である。自信にあふれた講師の顔がわが国の首相に似ていた気がするが、見間違いであろう。