職業大学 新設の必要があるのか - 朝日新聞(2016年6月1日)

http://www.asahi.com/paper/editorial2.html?iref=comtop_shasetsu_02
http://megalodon.jp/2016-0601-1344-33/www.asahi.com/paper/editorial2.html?iref=comtop_shasetsu_02

中央教育審議会が、職業教育に特化した新たな「大学」を創設するよう答申した。
学術が中心のこれまでの大学と並び、技能の教育に軸足を置く大学をつくる。大学の種類が増えるのは、1964年の短大の制度化以来である。
職場のリーダーの養成をめざすといい、既存の大学と同じ学位を与える。「専門職業大学」などの名称案も示された。
さまざまな職場で役立つ人材を養う教育はもちろん大切だ。だが、そのために新たな大学をつくる必要があるのか、疑問を抱かざるを得ない。
企業も大学もいま、曲がり角に立っている。
企業はこれまで大学で何を学んだかを重視せず、社内教育で人を育ててきた。それがグローバル化のなか、自前で育成する余裕がなくなっている。
大学も進学率が約50%と一般化し、卒業後の出口を意識する傾向も強まっている。
そんな背景から、大学教育と職業の関係が問われるようになったことは理解できる。しかし新大学の制度は課題が多い。
答申は求められる人材として、IT分野でアイデアを提案するプログラマー、観光分野での接客のプロ、販売もできる農業者などを例示した。
だが今後、どんな職でどれほどの規模の人材が必要かまで見通せているわけではない。
専門職に特化した大学院はすでにあるが、会計大学院などが需要を読み切れずに定員割れしている。新たに制度をつくるならニーズを明確にすべきだ。
新大学は、産業構造の変化が加速し、新しい職業が次々生まれるなか、産業界の需要に即応した教育をするという。
これまで、すぐ役立つ技能の教育を担ってきたのは、専門学校だ。設置基準が緩やかなだけに社会の変化に対応しやすい。
新大学はどこまで素早く動けるのか。大学を名乗る以上、教育研究の質をきちんと担保することは欠かせない。スピード優先では支持は得られまい。
既存の大学も多様化が進み、企業と連携したプログラムをつくり、現場実習に力を入れる例も出ている。新大学はそれとどう違うのか明らかではない。
新大学の創設よりむしろ重要なのは、既存の大学が自らの教育を問い直すことではないか。
社会への出口をふまえた検討は必要だが、就職実績を追うあまり、学問を深める機能が細るようでは社会の損失になる。
大学がもつ学術研究の強みを生かし、各校が多様なアプローチで教育を進めてもらいたい。