(余録)公開中の映画「殿、利息でござる!」は… - 毎日新聞(2016年5月29日) 

http://mainichi.jp/articles/20160529/ddm/001/070/150000c
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公開中の映画「殿、利息でござる!」は、江戸時代の仙台藩で実際にあった話を基にしているそうだ。庶民は重税にあえぎ、破産や夜逃げが後を絶たない。さびれる宿場町を復興させるため、奇想天外な知恵を絞るという話である。
要するに藩に大金を貸し付け、高い利息を取ることで年貢を取り戻す。それを宿場に還元して人々を救おうという作戦だ。搾り取るのは強者、取られるのは弱者という図式を逆転させたところに妙味がある。
もっとも、約250年後の今日、庶民のお金をお上が借用するという図式はすっかり定着したようだ。国の借金といえば国債である。大半を国内の金融機関などが引き受けている。その資金は主に国民が積み上げた預貯金や年金保険料で賄(まかな)われている。元をたどれば、お金の出し手は国民ということだ。
ところが超低金利のこの時代、いくら貸しても高い利息は得られない。映画で、宿場の知恵者が編み出した秘策も現代では功を奏さず宿場復興は見果てぬ夢、という寂しい結末になりかねない。
そうなると結局得をしているのは誰か。借金をしている国ということになりそうだ。安倍政権は先日の伊勢志摩サミットの首脳宣言にG7版「三本の矢」を盛り込ませた。国際的なお墨付きを得て、超低金利を続けるつもりらしい。
しかも日銀は「マイナス金利」にまで踏み込んでいる。利息を頼りにしている年金生活者らの暮らしは逼迫(ひっぱく)する。人々は将来への不安を募らせ、財布のひもを締めかねない。それでは経済の好循環も起こるまい。やはり、適正な金利は必要なのだ。「黒田日銀総裁殿、利息でござる!