語り継ぐ5・29 横浜大空襲71年(下) 対話で理解に厚み:神奈川 - 東京新聞(2016年5月27日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/list/201605/CK2016052702000176.html
http://megalodon.jp/2016-0527-2247-02/www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/list/201605/CK2016052702000176.html

「吹きすさぶ熱風でたちまち乾燥する衣服に、頭から下水の水をかけ、火炎の収まるのを待った」
「鉄かぶとを手に持ち、当時の男の役目として、見張りのため、家の前の道路に出て空を見上げました」
話し手は横浜市日吉台中学校演劇部の一、二年生。横浜大空襲から七十一年を迎える二十九日に、朗読劇を演じる。練習開始はこの四月から。「鉄かぶとってなに?」と語句を学ぶことから始めた。
脚本は顧問の山田容弘教諭(57)の書き下ろし。大空襲の記録から構成した。舞台で声を出して表現するためには、せりふの意味を調べ、自分なりに消化しないといけない。大空襲を題材にすれば、記録に残りにくい市井の人々が出くわした惨状を知ることになる。
台本には、うじ虫が混じったにぎり飯や、内臓の出た女性の遺体なども書かれている。「こんな体験はないけど、思い浮かべて演じたい」。一年生の加藤歩さん(12)は前を見つめる。
あちこちに足を運び、戦争や空襲が実際にあったことを受け止め、考えを深める高校生もいる。横浜商業高国際学科の生徒有志でつくる「NGO☆GLOCAL−Y(グローカリー)」は、地元の歴史や社会問題を現地調査を通じて学ぶ。
二十日、同校近くに住むお年寄りに聞き取りをした。戦時中、米軍のB29爆撃機が同校近くに墜落した際の様子を聞いた。こうした活動から、大空襲や戦争そのものに対して、さまざまな考えが生まれる。
「空襲で無差別に人が殺され、身近な人も物も一瞬で奪われる。こわい」
「夢を持って生きている一人一人が、戦争で死んでいくのはもったいない」
戦争の怖さ、愚かさを指摘するだけではない。
「戦争が終わるたびに『いけないことだ』と反省していたら、既に戦争はなくなっているはずなのに」
「今の時代に生きているから関係ない、とも思う。戦争についてもっと知るべきか、揺れている」
時には涙を交え、懐疑心や迷いも見せた。
桐蔭学園高女子部三年の山本真梨子さん(17)と飯村明佳さん(17)は昨年、他の仲間とともに、連合軍捕虜が受けた虐待や、旧日本軍のBC級戦犯を裁いた横浜裁判を調べた。
大空襲の際に墜落したB29爆撃機の搭乗員には、終戦を待たずに殺された人もいる。このような事実に触れ「日本人だけが傷ついたのではない。アメリカや他の国の人も同じ」(山本さん)、「いろんな国の立場からバランスよく学ばないと」(飯村さん)と視野は広まった。
その後、山本さんらは米国人元捕虜たちに英文で「捕虜や戦争犯罪がない世界を目指す」と記した手紙を渡した。好意的な返事をくれた人もいた。一人一人の活動が、心のわだかまりをなくすきっかけになるのでは、とうれしかった。
日吉台中と横浜商業高、桐蔭学園高の生徒たちは、二十八日から横浜市で開かれる「二〇一六 平和のための戦争展inよこはま」で舞台に立つ。二十一年目を迎えた戦争展。五、六年目までの来場者は高齢者が目立ったが、近年は若者の発表も続いている。
同展の事務局を務める吉沢てい子さん(66)は言う。「語り継ぐ、というと、同じ話をずっと繰り返し伝えるだけに聞こえる。そうではなくて、戦争とはどういうものか、いろいろな世代の人が考え、互いに対話して、より厚みを増して受け継がれるようにしたいんです」 (梅野光春)