軍学共同研究 技術立国に逆行する - 東京新聞(2016年5月18日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016051802000145.html
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学術研究や新技術の開発に防衛省が積極的に関与し始めた。軍事目的に有用となれば、研究成果はまず公開されない。研究成果は誰のものか。科学技術立国と矛盾しないのか。しっかりと考えたい。
防衛省が大学や研究機関を軍学共同研究に熱心に誘い込んでいる実態が、本紙の調査で分かった。防衛省は予算を伴わない研究協力協定を二〇〇四年度に始めた。技術交流が目的で、複数年に及ぶ。一三年度は計十四件だったが、一五年度には計二十三件と急増した。
目立つのが宇宙航空研究開発機構JAXA)だ。これまでに八件の協定を締結している。
技術交流が進むと、防衛装備に結び付くことになる。実際、衛星搭載型二波長赤外線センサー研究に防衛省は四十八億円の予算を付けた。一九年度にJAXAが打ち上げる先進光学衛星に載せる。
日本の宇宙開発は平和利用に限定して始まった。自衛隊宇宙開発事業団(当時)が打ち上げた通信衛星を利用できるのか。国会でまじめに議論されたこともある。それが、今の宇宙基本計画は安全保障から書き始められている。
一方、科学衛星は減り続けている。光学観測衛星は陸域観測技術衛星「だいち」が一一年度に運用を停止して以来、空白になっていた。先進光学衛星はほぼ十年ぶりとなる。エックス線天文衛星「ひとみ」は「日本のお家芸」ともてはやされたが、失敗が確定しても次期計画はない。宇宙科学分野を志す若者が減らないか心配だ。
軍学共同研究の問題点は、成果が公表されないことだ。たとえば、情報収集衛星の画像は防災に役立つはずだが、公表に消極的だ。一般の研究成果も秘密になる可能性が高い。
一五年度からは安全保障技術研究推進制度ができ、防衛省が直接、募集して研究費を配分し始めた。初年度はJAXA豊橋技科大などの九課題が選ばれた。
第二次大戦の反省から、日本学術会議は軍事研究をしないと宣言した。民生用の研究に有能な人材が集まり、日本が奇跡的な成長を遂げる一因ともなった。
科学技術立国と言いながら、日本の研究予算は多くはない。国は国内総生産(GDP)比1%を目標とするが、0・7%前後だ。韓国、米国、ドイツより低く、研究費に苦しむ研究者は多い。宇宙だけでなく、海洋開発やIT、物質科学などの分野も軍学共同となれば、日本の将来を危うくする。