(筆洗)「公私混同」という悲しき毒 - 東京新聞(2016年5月15日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016051502000122.html
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高野聖」などの作家、泉鏡花は「豆腐」を「豆府」と書いていたそうだ。もちろん、明治の文豪のこと、誤記や勘違いではない。
口に入れる物に対してかなり神経質な性質で、魚の刺し身などは絶対に食べなかった。豆腐もグラグラと煮つめないと口にできなかったほどでたとえ漢字であろうと「腐」の字が許せなかったという。
それほど警戒していたにもかかわらず、ある会合で酔っぱらってしまい、その勢いでタコの刺し身を口にしてしまったことがある。翌朝、友人に「タコを食べていましたよ」と教えられた途端、真っ青になり、急におなかが痛くなったと帰ってしまったそうだ。
天ぷら、イタリア料理に回転ずし。口に入れた時は平気だったのだろうが、「それは間違っていますよ」と批判されて、今になって青くなっている。おなかに激痛が走っている。東京都の舛添要一知事である。政治活動と確認できない飲食費、家族旅行で宿泊したホテル代を政治資金で支払っていた。
一部を返金し、わびたとしても、それを食べた事実を世間は忘れまい。口にしたのは政治家であるならば、どんなに微量であろうとはねつけ、絶えず警戒しなければならなかった「公私混同」という悲しき毒である。
高額の出張費用、公用車による別荘通いもある。都知事の「知」を泉下の文豪が「恥」と書き直さないかを心配すべきである。