(余録)広島、長崎に原爆投下を命じた米大統領トルーマンは… - 毎日新聞(2016年5月12日)

http://mainichi.jp/articles/20160512/ddm/001/070/137000c
http://megalodon.jp/2016-0512-0920-59/mainichi.jp/articles/20160512/ddm/001/070/137000c

広島、長崎に原爆投下を命じた米大統領トルーマンは引退後のインタビューで「大統領として最大の誤りは何だと思うか」と聞かれた。原爆にまつわる答えを期待した聞き手だったが、返ってきたのはある最高裁判事の指名人事であった。
トルーマンが決して後悔しないことが一つあるとすれば、それは原爆のことだ」とその聞き手は書いている。戦後トルーマンは何百回も同じ言葉で投下の正当性を語り、決定は難しかったろうと聞かれれば、「とんでもない、こんな調子で決めたよ」と指を鳴らした。
だが彼も内輪の手紙や会話では決定へのおののきや後悔、子供の犠牲への心痛をもらした。当時、頭の痛みを訴えられた側近が「痛むのは体? それとも心?」と遠慮なく問うと、「両方だ」と答えた(R・タカキ著「アメリカはなぜ日本に原爆を投下したのか」)
「王は悪事をなしえず」、国家や大統領は過ちを認めるわけにいかないということか。被爆の予想以上の惨状はトルーマンにことさらかたくなな態度をとらせたのかもしれない。それから71年、オバマ米大統領が現職大統領として初めて広島の平和記念公園を訪れる。
「核なき世界」を掲げた政権としては歴史への遺産となる訪問である。「謝罪」を否定したのは従来通りだが、注目すべきは訪問への米国内の好意的反応だろう。今や原爆使用を正当化する意見も若い世代で半数を割った。
大統領にはどうか広島の被爆の実相を心に刻み、全世界に伝えていただきたい。どんな国家も過ちを犯す人間の営みにほかならない。だからこそ「核なき世界」は人類すべての生存の条件なのである。