(余録)悪の集団と戦うハリウッド映画のヒーローは… - 毎日新聞(2016年5月11日)

http://mainichi.jp/articles/20160511/ddm/001/070/153000c
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悪の集団と戦うハリウッド映画のヒーローは頼りにならない法や警察とも対立する。この手の映画は「ビジランテ・ムービー」と呼ばれる。ビジランテとは開拓時代の自警団で、犯罪者や無法者とみなした連中に私刑を加えるのを常とした。
1970年代初めの「ダーティハリー」も捜査のために暴力も辞さない刑事を主人公としたビジランテ・ムービーである。しかしハリーが悪人を殺しまくったというのは思い違いで、続編はマフィアの暗殺をくり返していた警官グループと対決するストーリーだった。
だからフィリピン大統領選で当選したロドリゴ・ドゥテルテダバオ市長がダーティハリーにたとえられるのが適切かどうか知らない。ただ彼がダバオ市ビジランテ組織を率い、多数の麻薬密売人らの超法規的殺害を容認したと人権団体が非難するのは事実である。
実際にダバオの治安を劇的に改善したドゥテルテ氏は、大統領選でも「犯罪者は皆殺しだ」と過激発言を連発、比のトランプ氏といわれた。結果、広がる格差、汚職や犯罪のまん延への国民の不満を吸収しての勝利である。
「3〜6カ月で犯罪や汚職を一掃する」とドゥテルテ氏は息巻くが、さて今度率いるのはビジランテではない。他ならない治安機関や軍である。「問題が解決するなら独裁でもかまわない」とは支持者の声だが、独裁者はビジランテ・ムービーのヒーローの敵だろう。
悪に正義の裁きを下すビジランテ・ムービーに胸がすっとするのは洋の東西を問わない。だが胸をすっとさせることで票を増やすビジランテ・デモクラシーが洋の東西で目立つのは気がかりである。