いま読む日本国憲法 (4) 第9条 平和主義の根幹 自民草案では「国防軍保持」を明記 - 東京新聞(2016年5月3日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/imayomu/list/CK2016050302000174.html
http://megalodon.jp/2016-0504-1125-16/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/imayomu/list/CK2016050302000174.html


日本国憲法の第二章「戦争の放棄」は、この一つの条文だけ。憲法の三原則の一つ・平和主義の核となる条文で、憲法論争で常に焦点となってきました。
戦争放棄を宣言した九条一項は、「国際紛争解決、国策の手段としての戦争を放棄する」などと宣言したパリ不戦条約(一九二八年署名)が下敷きとされます。憲法戦争放棄を宣言した国はほかにもありますが、ほとんどが国防のための軍隊を持っています。
その点、戦力の不保持をうたった二項は、国際的にも際立っています。軍備を禁じた上、交戦権も否認するこの項は、軍事的手段ではなく諸国民への信頼によって安全を保つとした憲法前文の決意がそのまま反映されています。「憲法九条を保持している日本国民」をノーベル平和賞に推す活動も起きています。
自民党改憲草案は、九条を根幹的に変える内容です。
最も重要なポイントは、九条の生命線とも言える二項の戦力不保持と交戦権の否認をまるごと削除し、国防軍の保持を明記したことです。自民党改憲草案のQ&Aで「独立と平和を保ち、国民の安全を確保するため軍隊を保有することは現代の世界では常識」と説明しています。
さらに草案は、国防軍に対して「国際社会の平和と安全」確保や「公の秩序」維持という国防目的以外の活動も認めました。自民党は、集団安全保障と呼ばれる制裁行動も可能としています。
一項も、戦争放棄という言葉こそ残しましたが、武力による威嚇や武力行使について「永久に放棄する」から「用いない」という弱い表現に変え、「自衛権の発動を妨げない」というただし書きをつけました。
ここで言う自衛権についてQ&Aでは、他国を武力で守る集団的自衛権を含むと明言。自衛権を行使するとして、米国などと連携して海外で際限なく武力行使をすることになりかねません。二章のタイトル自体「安全保障」に変えられ、戦争放棄は事実上骨抜きになっています。
見逃せないのは、安倍政権が改憲手続きを踏むこともせず、草案を先取りしたかのような安保政策を推し進めている点です。
集団的自衛権の行使は歴代内閣が憲法解釈で禁じてきましたが、安倍政権は二〇一四年七月、解釈変更による容認を閣議決定。実際に行使できるようにする安全保障関連法を一五年九月に成立させました(今年三月施行)。多くの憲法学者や市民団体が「九条違反」として閣議決定の撤回や安保法廃止を訴えています。
自民党改憲草案の関連表記(抜粋)
戦争放棄の規定について)自衛権の発動を妨げるものではない。
二 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
 国防軍は、一項の活動のほか、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
 国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、国防軍に審判所を置く。
三 国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。
《用語解説》
希求=願い求めること
国権=国家の権力
集団安全保障=国連中心の侵略国への制裁