(私説・論説室から)史上最大のリーク - 東京新聞(2016年5月3日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2016050402000152.html
http://megalodon.jp/2016-0504-1214-59/www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2016050402000152.html

表に出るはずのない情報が白日の下にさらされた。秘密の保持こそが最大の売りであり存在理由でもあるタックスヘイブン租税回避地)。その顧客リストという秘中の秘が流出した。いわゆる「パナマ文書」である。
だが、その数日前。同じく表に出るはずのない極秘情報が暴露される事件が起きた。安倍晋三首相が内外の有識者から世界経済について意見を聞く会合。「ここからはオフレコで…」と首相が内密を頼んだ中身が会合後、相手にばらされてしまったのだ。
ノーベル経済学賞を受賞した米国の著名なクルーグマン氏がその人だ。首相は、議長を務める伊勢志摩サミットで世界経済成長のために各国が財政出動で協調、との青写真を描く。難問は財政規律が厳格なドイツをいかに説得するか。それこそ首相の腕の見せどころのはずだがオフレコ部分は、そのドイツ説得のアイデアを請う場面だった。
クルーグマン氏は「外交は私の専門ではないので…」とやんわりかわしたことも含め、会合の中身をツイッターで明かした。全体を公開したのは、氏が消費税増税に反対したことなど政府に都合良い部分だけを利用されたくないとの意思表示だろう。
一方的に頼まれたオフレコを破っても信義違反ではない。そもそも御用学者ではないのだ。「クルーグマン文書」も「パナマ」に劣らぬ強力なリークである。 (久原穏)