(余録)ともかく街が子どもたちであふれ返っているのに驚いたらしい… - 毎日新聞(2016年4月14日)

http://mainichi.jp/articles/20160414/ddm/001/070/155000c
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ともかく街が子どもたちであふれ返っているのに驚いたらしい。幕末から明治にかけて来日した欧米人の多くが、朝から晩までわいわい騒ぎながら路上を走り回っている日本の子どもたちの姿を書きとめている。その幸せそうな表情もである。
「街はほぼ完全に子どもたちのものだ。……あらゆる街路の真っただ中ではしゃぎまわるのだ」「子どもたちの主たる運動場は街なかである。交通のことなどすこしも構わずに遊びに没頭する」−−むしろ大人たちが子どもの遊びを邪魔しないよう気をつかっていた。
欧米人の観察は渡辺(わたなべ)京(きょう)二(じ)さんの「逝(ゆ)きし世の面影」(平凡社)から引かせてもらったが、子どもの遊ぶ声が町中に響き渡っていた時代だった。それから百数十年、街なかで上がる子どもらのはしゃぎ声には「うるさい」という住民からの苦情が寄せられる世となった。
千葉県市川市では開園予定の保育園が「子どもの声でうるさくなる」などといった住民の反対で建設中止になった。子どもの声をめぐるトラブルは他にもよく聞く。保育園については、これまでにも住民の訴訟や、反対運動による開園延期といった事態が生じている。
東京都の調査では保育園や公園で遊ぶ子どもの声に苦情のあった区市町村が7割にのぼった。大都市の住宅事情にあって住民の高齢化が進むなか、寄せられる苦情にも相応の事情はあろう。保育園の方も防音設備を整えることで住民の理解を求めているところもある。
起こっているトラブルはどうか折り合えるところで大人同士の解決を図ってほしい。子どもの声が疎(うと)んじられる街の百数十年後はあまり考えたくない。