G7核軍縮宣言 広島からの発信を力に - 毎日新聞(2016年4月12日)

http://mainichi.jp/articles/20160412/ddm/005/070/124000c
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この会合を、核のない世界に向けた確かな一歩にしたい。
広島で主要7カ国(G7)の外相会合が開かれ、核軍縮・不拡散についての「広島宣言」が出された。これに先立ち、米国のケリー国務長官ら7人の外相はそろって平和記念公園を訪れ、原爆資料館を見学するとともに、原爆慰霊碑に献花した。
原爆の投下によって広島で14万人、長崎で7万4000人もの命が奪われて71年になる。米国はもちろん、英仏を含めて核保有国の外相が被爆地を訪問したのは初めてだ。
関係国は広島から発せられた歴史的なメッセージを生かし、核軍縮を前に進めていく使命がある。

米大統領の訪問実現を
「広島宣言」は、テロ・難民対策などを盛り込んだ共同声明や、海洋安全保障に関する声明など、外相会合の成果をまとめた文書の一つとして発表された。
宣言は冒頭で「広島および長崎の人々は、原爆投下による極めて甚大な壊滅と非人間的な苦難という結末を経験」したと明記し、末尾で「核兵器は二度と使われてはならないという広島および長崎の人々の心からの強い願いを共にしている」と被爆地への共感を記した。
G7核兵器保有する米英仏3カ国と、保有しない日本、ドイツ、イタリア、カナダの4カ国で構成される。このため宣言の記述には、核保有国への配慮も目立つ。
とりわけ核兵器禁止条約を目指す国々がキーワードとしている「核兵器の非人道性」という文言は盛り込まれなかった。それでも「非人間的な苦難」との表現で被爆者の苦悩に思いを寄せたことは評価したい。
7外相のうちその言動が注目を集めたのは、唯一の原爆投下国である米国のケリー氏だ。
米国では、原爆投下を肯定する世論が今も多数を占めている。次期米大統領の候補者選びが本格化しているため、初の広島訪問が選挙に与える影響も計算していたはずだ。
しかし、ケリー氏は原爆資料館などを見学した後の記者会見で「胸をえぐられるような厳しい内容で、戦争がいかなる惨禍をもたらすかを想起させられた」と率直に語った。
さらにオバマ米大統領に対して「(被爆地)訪問がいかに大切かを確実に伝えたい」と明言した。
当初、予定になかった原爆ドームへの訪問を提案したのもケリー氏だ。残念ながら被爆者との対話の場は設けられなかったが、ケリー氏の発言がG7外相会合の広島での開催をより意義深いものとしたのは間違いない。
オバマ大統領は2009年のプラハ演説で「核兵器のない世界」を提唱するとともに、核兵器を使用した国としての道義的責任に言及し、被爆地の訪問に意欲を示してきた。
世界で最も影響力のある指導者として、5月のG7首脳会議(伊勢志摩サミット)の際は、ぜひ広島、長崎を訪れるよう求めたい。
いま核軍縮・不拡散をめぐる世界の状況は深刻だ。核大国である米露の対立によって核軍縮は停滞を余儀なくされ、北朝鮮が4回目の核実験に踏み切るなど核拡散も止まらない。中国も核戦力を近代化させているが、その実態は不透明なままだ。核拡散防止条約(NPT)に加盟していないインド、パキスタンの核軍拡も懸念されている。

具体的行動につなげよ
そういう状況下での広島宣言である。昨年5月にNPTの再検討会議が決裂した後、核保有国と非核保有国の双方が合意して「核兵器のない世界」に向けての文書が出されたのは初めてだ。
NPT再検討会議では、日本が世界の指導者に広島、長崎訪問を呼びかける提案をしたところ、中国が歴史認識の問題に絡めて待ったをかけた経緯がある。広島宣言で、政治指導者らによる被爆地訪問の意義が明記されたことを歓迎したい。
広島宣言も外相らの被爆地訪問も、不十分な点はいろいろある。だが、広島選出の岸田文雄外相の強いこだわりがなければ、ここまでこぎ着けられなかったのも事実だ。
米大統領選では、共和党候補指名を争う実業家のドナルド・トランプ氏が日韓の「核武装容認論」を語り、物議をかもしている。
しかし、日本が核兵器保有する選択肢は、政治的にも歴史的な経緯からもあり得ない。唯一の被爆国である日本には、核廃絶を目指す国際世論を主導する責務がある。他方、米国などの核保有国に対しては、核軍縮が義務づけられていることを忘れてもらっては困る。
日本は米国の「核の傘」に自国の安全保障を依存しながらも、核保有国と非核保有国の「橋渡し役」を自任してきた。核廃絶という究極の目標に到達する前の段階で「実践的かつ現実的なアプローチ」があることを重視してきた。
その考え方は、広島宣言にも盛り込まれている。日本は今後も核保有国と非核保有国の溝を埋める努力を続けていく必要がある。
広島にG7外相が集った意義を踏まえ、どう核廃絶に近づけていくのか。構成国のみならず広く世界が共有すべき課題である。