沖縄・目取真さん 拘束の投げかけるもの - 東京新聞(2016年4月9日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016040902000145.html
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沖縄の米軍新基地に抗議していた芥川賞作家目取真俊(めどるましゅん)さんが日米地位協定に伴う刑事特別法違反の疑いで逮捕された。外部と連絡できず米軍に長時間拘束された。どれほどの正当性があったのか。
目取真さんは一日朝、名護市辺野古沖からフロート(浮具)を越え、米軍キャンプ・シュワブの制限区域に許可なく入ったとして米軍基地内に拘束された。日米地位協定に伴う刑事特別法違反の疑いで第十一管区海上保安本部緊急逮捕。送検後、二日夜に処分保留で釈放された。
海上行動で身柄を拘束される人が出るのは初めてだが、正当性があったのか、多くの疑念が残る。
米軍から海上保安庁に身柄を引き渡されるまで、目取真さんは八時間にわたり基地内に留め置かれた。釈放後、目取真さんは「銃を持った兵士に監視されながらいすに座らされていた」と話した。
身柄は日本の当局に速やかに引き渡さなければならない定めがあるが、守られなかったのはなぜか。基地ゲート前の抗議行動でも身柄を拘束されたケースがあるが、一、二時間で県警に引き渡されてきた。それに比べて異常な事態ともいえる。
日本の捜査当局も対応はどうだったか。目取真さんを支援した弁護士は、米軍に拘束された目取真さんの居所を県警や海保、沖縄防衛局に確認しても「知らない」などと答えられ、詳細がつかめなかったという。海保によると目取真さんは「黙秘」していたという。
戦後の米軍占領時代から、沖縄の人々は治外法権に苦しめられてきた。日本の主権が及ばない場所で自国民が自由を奪われていても、日本の当局がその居所さえ確認できないのでは責任放棄であり、人権侵害もはなはだしい。
沖縄北部・ヤンバル生まれの目取真さんは故郷の海に軍事基地を建設させまいと、一人の住民として反対運動に参加している。カヌーチームの海上行動を自身のブログに書きつづってきた。
拘束されたのはいつもの通りにチームのメンバーと一緒に浅瀬を通るときだった。
米軍側の日本人警備員は目取真さんの本名を呼んでいた。非暴力で粘り強く抗議している人々には抑圧や威嚇と思われるだろう。
辺野古の埋め立て承認をめぐり、国が翁長雄志県知事を訴えた代執行訴訟で和解し、埋め立て関連の工事は全面的に中断している。身柄の拘束は県と国との円満な解決にも水を差しかねない。