(余録)宮沢賢治の童話「銀河鉄道の夜」は教室の光景で… - 毎日新聞(2016年4月4日)

http://mainichi.jp/articles/20160404/ddm/001/070/165000c
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宮沢賢治の童話「銀河鉄道の夜」は教室の光景で始まる。先生が星座の図を黒板からつるし、銀河の話をする。東日本大震災で児童74人と教職員10人が犠牲になった宮城県石巻市の大川小学校に、この童話の壁画がある。
震災前の卒業生が描いた。明かりの漏れる窓を黄色く塗った汽車が宇宙へと走る。夜空にオリオン座が輝く。東北が生んだ作家の名作をみんなで一生懸命勉強したのだろう。
観光バスで乗り付け、無造作にカメラを向ける人がいた。地元住民には複雑な思いもある。壊れた校舎を見るのもつらい遺族がいる。後世に残すべきか、解体か。意見が分かれる中、石巻市は保存を決めた。
流れをつくったのは卒業生たちの声だ。その一人が当時5年生の只野哲也(ただのてつや)さん(16)。学校で奇跡的に助かったが、妹と友達を失った。母と祖父も津波で亡くした。只野さんは本紙記者に語っていた。高校で部活や勉強に悩むと大川小を訪れるという。
津波の記憶も呼び起こされる。だがそれ以上に強く、友達との楽しい日々がよみがえる。サッカーをして、花見をして、雪合戦をして……。生き残った自分は思い出すことができる。だから「悩んでいたら申し訳ない」と思う。学校は「勇気をもらえる場所」であり、「友達が生きた証し」なのだと言う。
銀河鉄道の夜」は孤独な少年ジョバンニが親友カムパネルラと宇宙を旅する未完の作品だ。大川小の子供たちは、それぞれの人生の続きをどんなふうに旅しただろう。学校は慰霊と防災教育のために震災遺構として整備される。ともに生きたことを伝えようとする卒業生たちに、ここはずっと守られていく。