NHK 「異例の事態」いつまで - 毎日新聞(2016年4月1日)

 
http://mainichi.jp/articles/20160401/ddm/005/070/127000c
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NHKの新年度予算がきのう国会で承認された。しかし、相次ぐ不祥事を問題視した民進、共産、社民、生活の野党各党が反対した。全会一致が崩れたのは2014年の籾井勝人(もみいかつと)会長の就任以来、3年連続だ。
広く国民から徴収される受信料で成り立つNHK予算は、全会一致が原則である。まさに異例の事態だ。
NHKでは昨年、報道番組「クローズアップ現代」の「やらせ」問題が発覚した。その後も子会社社員の2億円着服や記者のタクシー券不正使用、アナウンサーの危険ドラッグ製造・所持などが続いている。
籾井会長が今年2月に番組で陳謝する場面はあったが、改革の展望は見えない。籾井氏自身、就任当初から政府の立場に寄り添うような言動を繰り返し、報道機関の長としての資質を疑問視されてきた。

懸念する声はNHKの内部からもあがっている。

「この2年間はいったい何だったのか。会長の就任会見以来、相次いで発生する問題、課題への対応に追われ続け、対症療法的な対応を迫られた」。2月に退任した専務理事の一人は、監督機関のNHK経営委員会でこう語った。
籾井氏の就任から3カ月後に退任した理事・技師長が「異常事態はいまだ収束していない。職場には少しずつ不安感、不信感あるいはひそひそ話といった負の雰囲気が漂い始めている」と述べたこともある。

会長を選出した経営委員会も責任を果たせていない。

放送法は「公共の福祉に関し公正な判断」ができることを経営委員の資格要件とする。そして委員は国会の同意を得て首相が任命する。
政治の影響を受けやすいし、会長の進退など大きな判断で12人の委員が足並みをそろえるのは難しい。
新年度予算の審議において、付帯決議が採択された。そこではNHKに対し綱紀粛正を求める一方、経営委員会に対しても会長選考の在り方を議論するよう注文を付けている。
籾井会長の任期は1年を切った。再び混乱を招かぬ対策を講じる必要もあるのではないだろうか。
クローズアップ現代」のキャスターを3月に降板した国谷裕子さんは23年間を振り返り、最後に次のようなコメントを出した。「時代が大きく変化し続ける中で、物事を伝えることが次第に難しくなってきた」と。
公共放送のNHKには、国の統制から自立し、公共の福祉に寄与する役割がある。インターネットに番組が同時配信される時代の受信料制度や、東京・渋谷の放送センター建て替えなど、課題も目白押しだ。
信頼回復へ関係者が一丸となって取り組まなければならない。