<特定秘密>遠い指定解除への持ち込み - 毎日新聞(2016年3月30日)

http://mainichi.jp/articles/20160331/k00/00m/010/150000c
http://megalodon.jp/2016-0331-0933-43/headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160330-00000136-mai-pol

◇衆参両院の情報監視審査会 報告書を各議長に提出

特定秘密保護法の運用を巡り、衆参両院の情報監視審査会が30日、報告書を各議長に提出した。昨年12月の内閣府の独立公文書管理監と合わせ、特定秘密を監視する機関による初めての報告書が出そろった。制度が始まったばかりで手探り状態なこともあるが、その活動は不適切な秘密指定を見つけ、指定解除に持ち込むにはほど遠い。衆参の審査会は政府に改善を求める「勧告」ができるが、今回は意見を述べただけだった。【青島顕、水脇友輔、高橋克哉】

衆院の審査会、6項目の改善意見

三つの機関は、2014年12月の特定秘密保護法施行直後に指定された382件の特定秘密をチェックした。概要を示した「指定書」やリストに当たる「指定管理簿」を基にして、秘密を指定した行政機関への質疑を中心に調査した。
衆院の審査会は報告書で▽指定管理簿の記載を総点検し、具体的に記述して、秘密の範囲を限定すること▽保存期間満了前に文書を廃棄する時は、独立公文書管理監に報告し、管理監は審査会に定期的に報告すること−−など6項目の改善意見を付けた。
参院の審査会は、防衛省の指定管理簿で全く同内容の記載だった10件について書き直しを求め区別させるなど、指定書や指定管理簿の記載を計5回修正させたことを報告した。
情報公開クリアリングハウスの三木由希子理事長は「指定管理簿の内容を充実させ社会への説明責任を果たさせるべきだ」と話す。
ただ、より強く政府に改善を迫る勧告は見送った。衆院額賀福志郎会長(自民)は「政府の対応を見て十分でなければ行使してもよい」、参院金子原二郎会長(同)は「勧告は非常に重く、1年目はしなくてよいと判断した。2、3年目は状況次第」と述べた。
一方、衆院の報告書は行政機関との質疑応答の断片を記した。そこからは情報提供にかたくなな省庁側の姿勢が浮かぶ。国家安全保障会議(NSC)4大臣会合の結論に関し、委員が「立法府は一切知らなくていいのか」と議事録の開示を求めたが、NSCは「4大臣会合は総理の下、率直な意見交換が目的。記録の開示は慎重に検討する必要がある」と応じなかった。
13年の特定秘密保護法制定時、政府は外国からの情報提供が容易になると強調した。この点で委員が「改善効果はあるのか」と切り込んだものの、法を統括する内閣官房は「施行後まもなくであり、効果が表れるのはこれからではないか」とかわした。さらに、委員は指定された秘密1件ごとに対応する文書の一覧の提出を求めたが、内閣官房は「文書名は一部提出できないと複数の省庁から回答があった」と消極的だった。
特定秘密の実際の確認活動は、衆院の審査会が衛星画像1件のみ。参院は衛星画像のほか、昨年12月に外務省など3件の特定秘密文書の提供を受けた。参院では野党側が4大臣会合の結論の提供要求を提案したが多数の与党側が反対した。
政府内の監視機関である独立公文書管理監の報告書は内容の薄さが際立っていた。管理監を務める検事出身の佐藤隆文氏らで組織する情報保全監察室が調査したが、報告書の本文はA4判10ページ。特定秘密を記録した165文書を直接確認したが、約20万の特定秘密文書の中から、監視を受ける省庁側に「典型的な秘密を(選ばせて)提出してもらった」(監察室)という。

◇行政有利、高い壁が次々に

国会議員は憲法上、院内の発言に院外で責任を問われないが、衆参両院の情報監視審査会の委員は院内でも守秘義務を負い、特定秘密の内容を漏らせば懲罰の対象になる。にもかかわらず特定秘密文書を見て、要件を外れたものを見つけ出し、秘密指定の解除に持ち込むには、いくつものハードルを越える必要がある。
審査会は特定秘密保護法施行から約4カ月遅れ昨年3月に設置された。衆参とも8人の委員は会派の議席数に応じ割り振られる。現在、衆院は与党6・野党2、参院は与党5・野党3。
常時監視をうたうが、審査会の開催要求は3分の1以上の委員の賛同が必要で衆院は野党だけではできない。指定管理簿などの記載、秘密を指定した省庁からの説明で疑問が出たら、委員の過半数の賛成で秘密文書の提供を求める。現状では与党委員の賛成が得られなければ秘密文書を見ることができない。
提供要求に対し行政機関は「国の安全に著しい支障のあるおそれ」があると判断すれば応じなくて済む。審査会は行政機関に秘密指定の解除などを求めて勧告できるが、強制力はない。
これまでの審査会開催は衆院9回、参院15回。米英は対外情報機関の監視組織を国会に設けているが、米上院が2013年までの2年間に112回開催、英国も開会中は週1回定期開催(いずれも衆院調べ)であるのに比べかなり少ない。
この制度を与党で協議した際は内部通報窓口の設置が想定されていたが、これまでつくられていない。議事録は非公開で、第三者による検証の機会もない。