(筆洗) - 東京新聞(2016年3月23日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016032402000159.html
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こういう俳句がある。<青海に環なす星星末永く>。欧州連合(EU)の初代大統領やベルギーの首相を務めたヘルマン・ファンロンパイさん(68)が詠んだ句だ。
海を思わせる鮮やかな青に、十二の金色の星。ファンロンパイさんが「末永く」と祈りを込めてうたったのは、EUの象徴たる「欧州旗」。整然と円を描いて並ぶ星々は、欧州市民の団結と調和を表しているという。
その星の環の中心を、狙ってのことか。EU本部のあるブリュッセルを、同時多発テロが襲った。三十人余もの命を一瞬に奪い、二百人を超える人々を傷つけた。
押し寄せる難民をどう受け入れるかをめぐり、欧州では国と国、市民と市民の間に亀裂ができている。その裂け目に湧いた不安や憎悪をかき立てるように、かの地をテロが揺るがし続ける。
そういう時だからこそ、昨年秋にパリで起きたテロで愛妻を失ったフランス人ジャーナリスト、アントワンヌ・レリスさんが発した「私は決して、君たちに憎しみという贈り物を贈らない」という言葉を、再びかみしめる。テロリストたちは、憎しみに憎しみで応えること、憎悪の連鎖を待っている。だからそれは贈らないと。
ファンロンパイさんは昨年、本紙の「平和の俳句」に賛同し、こういう句を寄せてくれた。<陽(ひ)を海を星を見る者和を愛す>(訳・木村聡雄氏)。爆弾では壊せない言葉がある。