ベルギー連続爆発 テロには理性で戦う - 東京新聞(2016年3月23日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016032402000160.html
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少しの高性能爆薬と数人の自爆テロ犯が欧州を揺すぶりかねない。もちろん揺すぶられてはならない。社会の分断を狙うテロのわなに陥ってはならない。
ベルギーでのテロは、空港、地下鉄という人の移動の中心、だれもが集まり、だれもが来てもいいところで起きた。卑劣きわまりない。
だが、つまりどれほど警戒を強めようと、犯人が指名手配者でもなく、その顔も知られていないのなら、防ぎたくとも防げないことになる。
◆狙いは混乱とパニック
銃をもった制服警官やマシンガンを抱える兵士、また私服の警備の配置は必要だ。欠かせぬ対策である。テロ犯に対する威嚇であり、不審者の自爆を寸前に止めてくれるかもしれない。
だがそれでも完全に防ぐことは無理かもしれない。そこがテロ犯の狙いであり、日常をおびえさせようとし、それは昨年のパリで示され、ベルギーで今あらためて私たちは知ることになった。
一般論でいうと、テロの原理とは、混乱やパニック感情を引き起こし、うまく進むのなら、社会に沈積していた不満を爆発させ暴動につなげることである。政権を倒すことさえある。
だから、冷静さが求められ、テロ犯罪に対する団結が不可欠となり、テロの仕掛けるわなには陥らぬ理性こそが武器となる。
シリアとイラクを拠点とする過激派組織「イスラム国」(IS)のニュースサイトが犯行声明を出した。
昨年十一月のパリ同時多発テロで逃走中だった実行犯が逮捕された直後の犯行だった。
パリ事件の犯人グループはベルギーの首都ブリュッセルの移民街モレンベークを拠点にしていた。失業率が約四割と極めて高く、若者の不満も大きかった。 
◆ドイツの寛容政策は
武器が簡単に手に入る闇市場があるとも指摘される。捜査、国際共助は十分だったか、若者の疎外感を解消する手だてはなかったのか、検証が必要だ。
テロの狙いの一つは社会の分断にある。
イスラムと非イスラム、欧州人と非欧州人の分断は差別と抑圧を生み、さらにもし混乱が進むのなら欧州人内部の分断すら招きかねない。団結は混乱の防波堤でもある。
メルケル独首相の側近で、保守与党の重鎮フォルカー・カウダー氏はちょうど来日中だった。サミットの事前調整がある。親日家でもある。きのうの日本記者クラブの会見でこう語った。
「テロは難民と直接の関係はない。内戦で追われ迫害された人々にはドイツや欧州に滞在する権利がある。言葉を学び、職業訓練を受け、社会に統合されるようにしたい。大きな試練だが、克服できる」
では欧州連合(EU)内のきしみ、亀裂はどうか。
加盟国が国境審査を免除し合うシェンゲン協定はEUの理念を体現してきた。今は協定の一時適用中止の動きも出始めている。
テロにより物流、経済への影響が出てきそうだが、最小にせねば混乱が広がりかねない。テロとの戦いは実に多岐にわたるが、乗り越えねばならない。
ISとその前身でもある国際テロ組織「アルカイダ」は、ともに西洋文明を敵視するが目標も組織形態も異なるようだ。
アルカイダは軍事訓練を行い、目標をアメリカに絞っていた。組織はピラミッド型。9・11テロを仕掛けた。
ISは戦闘員はそれほど訓練を受けずとも参加でき、欧州で生まれ育った若者もいる。組織はピラミッド型というより、ツイッターフェイスブックでつながる平たいネット型といえる。監視の強いアメリカでなく、比較的弱い欧州を狙う。
捕捉は難しいともいえる。長い戦いを覚悟せねばならないかもしれない。悪くすれば拡散する。
テロを機会に社会の分断、亀裂のようなことが起きれば、若者はさらにテロに駆り立てられかねない。
イスラム側の発信も
イスラムの側もテロはイスラムの敵であるとあらためて発信せねばならない。
イスラエルパレスチナの問題、サウジアラビアとイランとの対立も遠く不安の背景にある。外交の力を合わせて解決、解消したい課題だ。
かつて植民地主義を唱道した欧州と、植民地主義の犠牲になったアラブ・イスラム世界との歴史的な傷をテロ組織は繰り返し吹聴する。それらに打ち勝てるのは両者の理性しかない。
テロの仕掛ける、社会の分断を避けるのはまさに一人ひとりの理性にかかる。