撒こう平和菌の歌 再稼働への怒りをユーモアに変えて - 東京新聞(2016年3月23日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201603/CK2016032302000242.html
http://megalodon.jp/2016-0324-0900-21/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201603/CK2016032302000242.html

原爆・原発 被(かぶ)った今も
懲りずに推進求めるアホは
ほんわか菌を浴びるがよろし…。

東京電力福島第一原発事故から5年の春、原発時代に逆戻りするような時勢を風刺した歌が被災地で生まれた。その名も「平和菌の歌」。元東京純心大学教授の佐々木孝さん(76)=福島県南相馬市原町区=が詞を書き、友人の音楽家が曲をつけた。歌を広めようと歌詞集の豆本製作に励む。 (編集委員佐藤直子
「昨今のきな臭い政治状況に歯ぎしりしていたが、『平和菌』を散布する道が残されていると一念発起…」。歌の誕生をユーモアたっぷりに語る佐々木さん。その日常は認知症の妻の介護とともにある。
原発事故が起きた五年前もそうだった。原発から二十三キロの自宅は屋内退避指示が出され、周辺の住民が避難する中で、佐々木さんの一家はあえて自宅に残った。「不便な避難所に行ったら妻の体調が悪くなる」と考えたからだ。被ばくを恐れて支援のトラックも近づかなくなった町で高齢の母と長男夫婦、小さな孫娘の六人で耐え、自身のブログ「モノディアロゴス」で苦境を発信した。
その後、母親と息子夫婦、孫を県外に一時避難させたが、母親は避難先で亡くなった。悔しい思いは数え切れないが、佐々木さんにとって最も無残なのは、「変わると思った日本が変わらなかったこと」だ。「これだけの苦しみや被害を人々に与えたのに、原発は再稼働、再稼働でしょ」
「平和菌」は怒りがやまない佐々木さんが空想の中で培養する不思議な菌だ。振りかけると、もめごとや戦争は茶番劇に変わり、虚勢や威嚇は猿芝居になる−。菌の効用を語った歌詞に元同僚のピアニスト、菅祥久さんが曲をつけた。
「平和菌」が閉じ込められていると見立てた豆本は横四センチ、縦八センチ、二十六ページ。厚紙に布と印字した歌詞を張るだけで、千冊を目指して六百冊が完成した。「胸ポケットやバッグにしのばせ、時々取り出しては『平和菌』の散布にご協力を」と、ちゃめっ気あふれる手紙とともに友人らに配る。豆本の作り方をブログに載せて「平和菌の増殖要請」も怠らない。
今は会話のできなくなった妻の穏やかな寝顔も、小さな孫の健やかな成長も、その根底に平和がなければと、佐々木さんは思う。歌詞はこう結ばれる。平和への祈りを込めた呪文として。

飛ばそ 撒(ま)きましょ 平和の菌を
みごと咲かせよ 心の園に
あなたと私の垣根を越えて
国境線さえ消してゆく
ケセランパサラン(どうなるのでしょう)、
コモパサラン(なるようになるでしょう)

◆平和菌の歌・歌詞 

  1. 生まれは いずこか知らないけれど/その働きは いつかは分かる/柳眉逆立つ不美人さえも/これをはたけば 楊貴妃に/ケセランパサラン、コモパサラン
  2. そのわけ 何にも分からんけれど/誰にも効き目は じわりと分かる/争い、もめごと、戦争さえも/これを被(かぶ)れば 茶番劇/ケセランパサラン、コモパサラン
  3. 見た目は カビと変わらんけれど/漂う芳香 いつかは気づく/虚勢や威嚇は ただそれ嗅ぐだけで/馬鹿(ばか)丸出しの 猿芝居/ケセランパサラン、コモパサラン
  4. 原爆・原発 被った今も/懲りずに推進求めるアホは/ほんわか菌を浴びるがよろし/まことの幸せ 見えてくる/ケセランパサラン、コモパサラン
  5. 飛ばそ 撒(ま)きましょ 平和の菌を/みごと咲かせよ 心の園に/あなたと私の垣根を越えて/国境線さえ消してゆく/ケセランパサラン、コモパサラン