巣立つ障害者たちへ 「おめでとう」を言いたい - 東京新聞(2016年3月22日)


http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016032202000135.html
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長野県南信の中央道松川インターを下りると、国道153号沿いに、緑色のカントリー調の建物が見えてくる。中はクッキー工房や厨房(ちゅうぼう)。作っているのは中央道のサービスエリアで人気のお菓子「信濃なる ユキワリソウ」など。菓子職人のユニホームを着た若者たちが作業に精を出している。
◆親たちが作った施設
社会福祉法人「アンサンブル会」の施設。知的障害のある人たちが収入を上げ、それで住宅を借り、自立する場を築いている。
ここに至るまで実に二十年がかりだった。理事長を務める小椋年男さんの長女は特別支援学校を卒業する際、行政が紹介する授産施設を訪ね回ったが、入所を断られ続けた。定員が明らかに少なすぎるのだ。そして同じ境遇の人が百数十人もいることを知った。
「図らずも障害のある子を授かった。この子らが自立できる道をつくることは、自分に課せられた必然だと思いました。大勢の仲間とともに自分たちの手で働く場をつくるしかなかった」。土地を買うことから始めた。
今ではスイーツのほか、有機野菜、ブームの薪(まき)ストーブ用の薪、ヒノキを使った畳…。伊那市にも開設した施設と合わせ約百三十人の若者が汗を流してつくる品々で年商は約一億円に達する。工賃は全国平均の二倍以上で入居費用を差し引いても月に五万円ほどの小遣いが得られる。
アンサンブル会はまれな成功例でもある。障害者の就職は増加傾向とはいえ、まだまだ狭き門に変わりはない。
◆褒めてあげる表彰式
障害者手帳を基にした統計で障害者総数は約七百四十万人、そのうち雇用されているのは三十万人程度にすぎない。働けるのに雇用されず自宅で過ごさざるを得ない人は約二百五十万人とみられている。人手不足、一億総活躍といわれているのにだ。障害者雇用を劇的に大きく増やす必要がある。
アンサンブル会は今年で六回目を数え、二十三日に表彰式がある「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の実行委員長賞に選ばれた。知的障害者が社員の七割を占めながら、チョーク業界のトップシェアを維持する日本理化学工業川崎市)は審査委員会特別賞を受ける。大山泰弘会長は半世紀前から障害者雇用に人生を捧(ささ)げてきた「伝説の経営者」だ。原点は、僧侶のある言葉だった。
当初、大山さんは雇った知的障害の少女二人が、なぜ雨の日も強風の日もつらい思いをしながら働きに来るのか理解できなかった。施設にいれば楽ができるのにと思っていた。そのことを僧侶に尋ねると、答えはこうだった。
「人間の究極の幸せは四つです。人に愛されること、人に褒められること、人の役に立つこと、人から必要とされること。愛されること以外の三つの幸せは、働くことで得られる。障害がある人たちが働こうとするのは、幸せを求める人間の証しなのです」
以来、大山さんは彼女らがようやく手にした「幸せ」を守らなければならない、と心に決めた。
こういう良い企業を世に知らせ、増やそうというのが、この表彰制度の狙いだ。無論、障害者雇用に限ったことではない。過去五年以上、リストラなど人員整理をせず、仕入れ先にコストダウンを強制していないなどもその資格だ。
審査委員長の坂本光司・法政大大学院教授(経営論)は「賞金も賞品もない。ただ褒めてあげるだけだが、良い企業が増えれば日本は必ず良くなる」と信じている。
教授は四十年以上にわたり全国の約七千三百社に足を運び、その目で見てきた。そして経営の黄金律を見いだした。「業績は目的ではなくて経営の結果。正しい経営をすれば業績は付いてくる」
なぜなら社員が、また取引先も生き生きと働き、燃えるからだ。逆にリストラに脅(おび)えるような会社は人の心を動かす商品やサービスなど提供できないと断言する。
◆いい会社が増えれば
坂本教授は最近、加藤勝信・一億総活躍相に提言したという。
日本の喫緊の課題は少子化、地方衰退、そして財政赤字を膨らませる年五十兆円以上の税収不足であるが、「良い会社は好業績のうえ、総じて子どもが二人、三人いる社員が多い。だから良い会社を増やせば法人税収が増え、出生率が上がる。そういう企業が各地に出てくれば地方創生になる」と。
都内で開かれる表彰式典には加藤活躍相も出席の予定だという。一億総活躍というなら、障害者の雇用拡大を進めてほしい。悲しい卒業式がなくなるように。