(私説・論説室から) あの人も観てほしい - 東京新聞(2016年3月16日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2016031602000147.html
http://megalodon.jp/2016-0316-1000-31/www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2016031602000147.html

フランスで二〇一四年に公開され、国民の五人に一人が観(み)たというヒット映画の試写をみた。邦題「最高の花婿」は近く日本で公開されるが、はたして受けるか。
というのも日本人にとってはテーマが少々不慣れなのだ。ネタバレしない範囲で紹介すると、美人四姉妹のいる家庭が舞台。姉妹は次々嫁いでいくが、相手は順にユダヤ教イスラム教、そして中国人。両親は四女こそ自分たちと同じカトリック信者と結婚してほしいと願うが、四女が選んだのは…。
多民族・多宗教が混在する移民大国フランス。異人種間の結婚は全体の二割近くを占めるといわれ世界一だ。映画はかの国でありえないとは言い切れない内容なのである。
そして日本公開。なじみの薄い宗教の儀式や習慣やフランスが抱える植民地支配の負の歴史が映画のベースだけに日本人にとって分かりにくいのは確か。ただ、今ほど人種や宗教の差異を認め合い、「違い」を受け入れる寛容さが問われている時代はない。
万人にお勧めしたいが、とりわけ観てほしい人がいる。メキシコ国境に移民対策の壁を造るとか、イスラム教徒入国拒否など暴言を重ねるT氏。「日本を取り戻す」と拳を振り、時に波風を立ててしまう、あの人も。フランスは女性活躍や少子化対策に成功した国だ。保健所、いや保育所不足や一億総活躍のヒントも得られるかもしれない。 (久原穏)