政治活動届け出を校則化 愛媛の全県立高、県教委が例示 - 朝日新聞(2016年3月16日)

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選挙権年齢の18歳以上への引き下げを前に、愛媛県立の全59高校(特別支援学校、中等教育学校を含む)が新年度から校則を改定し、校外の政治活動に参加する生徒に、学校への事前の届け出を義務化することがわかった。県教育委員会は昨年末、全県立高に校則の変更例を記載した資料を配布したが、「校則変更の指示はしておらず、あくまで参考資料」と説明している。
文部科学省は昨年10月、選挙権年齢が今夏から18歳以上に引き下げられることを受け、校外でのデモなどの政治活動参加を解禁。従来は「教育上望ましくない」との理由から規制していた。届け出制については今年1月、「(生徒の政治活動は)教育目的達成の観点から必要かつ合理的な制約を受ける」との理由で容認したが、識者らからは「主権者教育の充実が求められるなか、政治的関心を育む機会を妨げかねない」などの批判的な指摘も出ていた。文科省によると、都道府県立高が一斉に届け出制を導入する例は把握していないという。
愛媛県教委によると、県教委は昨年12月、全県立高校の教頭らを対象に開いた主権者教育に関する研修会で、「政治的活動等に対する生徒指導に関する校則等の見直しについて」と題した文書を配布。その中で、届け出を要する事項に「選挙運動や政治的活動への参加」を追加し、1週間前までの届け出を求める校則変更例を示した。
変更の要否の判断は各校に任せることも伝えたという。しかし、変更した場合は県教委の担当課長宛てに報告するよう要請。変更例を示した文書は、この報告書のひな型としても使える書式で、校長名などを書く欄も示されていた。
文書配布について、県教委の担当者は「(生徒の政治活動参加を規制していた)従来の文科省方針に基づく校則が高校に残っている可能性がある。文科省の方針転換に伴い、各校が校則変更による届け出制導入を検討する際、参考資料が必要と判断した」と説明する。
ある愛媛県立高の校長は取材に「校外の活動であっても、自校の生徒に危険がないかを把握するため、政治活動への参加は知っておく必要がある。職員会議で導入を決めた」と話した。
届け出制について朝日新聞が全都道府県と政令指定市を対象に2月に調査したところ、大阪府や愛知県など6自治体が「届け出不要」という方針を高校に伝達していた。愛媛県を含む27自治体は「各校に任せる」、残る33自治体は「検討中」「未検討」などと回答した。(川口敦子、高浜行人)

■主権者教育に逆行
主権者教育に詳しい林大介東洋大助教政治学)の話 どの政治団体の活動に参加するかは思想・良心に関わる問題で、学校に伝えづらい生徒もいるだろう。例えば、届け出制があるために、生徒が選挙演説会や公開討論会を聴きに行くのをためらわないか。生徒自身が政治や社会について考える機会を学校が奪うことになり、それは主権者教育の充実の流れに逆行しかねない。また、生徒の校外活動について、保護者はともかく、学校が細かく把握する必要があるのか疑問だ。

■自由侵害の恐れも
教育委員の経験がある中嶋哲彦・名古屋大大学院教授(教育行政学)の話 教育委員会がモデルを例示すれば、学校が追随する可能性は高い。教委による情報提供の意義は理解できるが、校則を変更して届け出制にする選択肢だけでなく、その悪影響の恐れについても文書で示すべきだった。主権者になる高校生に対して届け出というハードルを設けることは、憲法で認められた思想や集会の自由を侵害しかねない。学校はその点をもっと重視するべきだ。