緊急事態条項「むしろ被災地に権限を」 7首長を本紙調査 否定的な声複数 - 東京新聞(2016年3月15日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201603/CK2016031502000120.html
http://megalodon.jp/2016-0315-0902-36/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201603/CK2016031502000120.html

東日本大震災で大きな被害があった岩手、宮城両県沿岸部の七首長に、自民党改憲テーマの一つに挙げる緊急事態条項の必要性などを聞いたところ、条項が必要としたのは一人だけで、「むしろ現場に権限を下ろしてほしい」など否定的な回答が複数あった。緊急事態条項は内閣への権限集中を規定緊急事態条項しており、被災自治体のニーズとのずれが浮かんだ。(小林由比)
本紙は二〜三月、人災の要素が強い原子力災害と異なり、自然災害で大きな被害を受けた岩手、宮城県自治体のうち、一千人超の死者を出した陸前高田(岩手)、石巻気仙沼東松島(宮城)の四市と政令市の仙台市に加え、4%超の住民が死亡した岩手県山田町、一つの地区で七百人を超える死者を出した宮城県名取市の計七自治体を選び、各首長に取材を申し込み、面談や文書で回答を得た。条項が「不必要」と明言したのは仙台、気仙沼の両市長で、名取市長は「必要」との立場を示した。
緊急事態条項は、大災害や有事の際、内閣に権限を集中し、財産権など個人の権利を制限することなどを定める。震災後に自民党幹部などから憲法に規定するよう求める声が上がり、二〇一二年の党改憲草案に盛り込んだ。
「条項が必要か」という問いに、菅原茂・気仙沼市長と奥山恵美子仙台市長は、「自治体の権限強化が大事だ」などとして、不要と明言。菅原市長は、草案発表後に災害対策基本法が改正され、災害で道路をふさいだ車両の撤去などが可能になった点を挙げ、「緊急事態条項があれば、人の命が救えたのか。災害対策基本法の中にある災害緊急事態条項で十分だ」との考えを示した。
戸羽(とば)太・陸前高田市長も「震災時は、国に権力を集中しても何にもならない」とし、否定的な見方を示した。
佐藤信逸(しんいつ)・山田町長は「小さな町の場合、県や国に全体を俯瞰(ふかん)してもらう必要はある」として一定の理解を示したが、実際の被害食い止めや救出には「起きてからではなく、事前に必要な政令などを作っておくべきだ」と主張した。
佐々木一十郎(いそお)・名取市長は「未曽有の大災害があれば、トップダウンが必要な局面がある」として「必要」と書面で回答した。
亀山紘・石巻市長と阿部秀保・東松島市長は条項の必要性について回答を避けた。
<緊急事態条項> 大災害や戦争が起きた時、政府の権限を強化したり、国会議員の任期延長を可能にする規定。いまの憲法にはなく、基本的人権を制約する可能性もある。自民党は2012年に公表した改憲草案に、この条項の新設を盛り込み、具体案を提示。首相が緊急事態を宣言すれば(1)内閣は法律と同じ効力を持つ政令を制定できる(2)首相は必要な財政支出地方自治体への指示ができる(3)何人も、国民の生命・財産を守るための国や公の機関の指示に従わなければならない−などと定めている。安倍晋三首相はこの条項の新設について「極めて重く大切な課題だ」と意欲を示している。