義務教育、重い負担なぜ 制服、かばん…中学入学で9万円 - 西日本新聞(2016年3月7日)

http://www.nishinippon.co.jp/feature/tomorrow_to_children/article/229204
http://megalodon.jp/2016-0314-1508-14/www.nishinippon.co.jp/feature/tomorrow_to_children/article/229204

春3月。わが子の進学を喜ぶ一方で、公教育に予想以上の私費負担が必要なことを知って戸惑う保護者が少なくない。福岡県春日市の40代女性もその一人。2月初め、長女が来月入学する市立中の説明会に参加し、制服や通学かばんなど総額約7万〜9万円を現金払いしなければならないと知らされた。共働きで2人の子を持ち、児童手当を受給する「標準的世帯」のこの女性にとっても重い出費。生活困窮世帯であれば就学援助を受けられるが、新入学用品費の支給額は約2万3千円で到底足りない。女性が本紙子ども問題取材班に寄せた疑問を、市教育委員会に投げ掛けた。

ある新入生母の訴え
冬服ブレザーとスカート2万9592円、通学かばん8500円、ジャージー上下7800円…。女性が入学説明会でもらった購入品一覧表の総額は必須品だけで約7万円、補助バッグなど希望者が買う品を含めると9万円近かった。「義務教育でも中学入学時にお金がかかるとは聞いていたけど、ここまで高いとは。せめてもっと早く言ってくれれば積み立てをしたのに」
同じ日に制服の採寸もあった。制服から通学かばん、体操服や補助バッグ、上靴まで販売業者が1社ずつ指定されていた。セーターやベスト、補助バッグの購入は任意だが、規定以外の物の使用は不許可。靴下も白だけでラインが入ってはいけないと言われた。
制服、ジャージーやセーターは、学年ごとに違う色で校名や氏名が刺しゅうされるため“お下がり”は入手しにくい。「娘のために貯金を切り崩してでもお金は用意します。ただ、『なぜ』『何のため』が次々と頭に浮かんで、消えません」

福岡・春日市教育委員会の見解
春日市教委学校教育課とのやりとりは以下の通り。
―入学時の費用は市内で統一されているのか
制服は中学ごとに学校とPTAが協議して決めている。市内6校中2校は、詰め襟やセーラー服の標準服を学校指定の3〜5社(数万円)から選んで購入する仕組み。4校は独自デザインのブレザーを採用している。入学時に必要な費用は、生徒数やデザインなどによって学校間で数万円の開きがあるのが実情だ。
―販売業者を絞るため価格が高いのではないか
独自デザインの学校の場合は1社に絞られる。ただ、保護者の経済的負担を抑えるため、他自治体に先駆けて制服業者の選定に入札を導入しており、価格を抑えられている方だと思う。昨秋、4年に1回の入札をし、前回と同じ業者が落札。繊維価格の高騰もあり、価格は前年度より上がった。かばんや靴などの業者は学校が選んでいる。
―刺しゅうや上靴の色を学年で変えたり、靴下が白でなければならなかったりするのはなぜか
刺しゅうは生徒を把握しやすくするためではないか。色の違いや靴下も各校の校則にのっとったもので、事実上、学校長の判断だ。
―制服やジャージーなどは学校の備品として貸出制にできないか
制服やジャージーは消耗度やサイズの個人差が大きく、衛生面でも備品にはなじまないと考えている。
―中学入学時に必要な金額を、なぜもっと早く知らせないのか
現時点では、毎年小学6年の3学期にある中学校入学説明会で入学時に必要な金額を保護者に伝えている。ただ、長子が初めて進学するまで額が分からないのは確かに不便。事前に概算の費用をお伝えする方がいいかもしれない。
―義務教育の無償を規定した憲法26条をどう受け止めるか
(しばらく沈黙し)私費負担ゼロで教育を受けることはできていない。個人的意見だが、国はすべての子どもに学習する機会を保障するため、教育予算をもっと手厚くすべきだと思う。

公的支出、現実は少なく―取材班から
憲法26条2項は「義務教育は、これを無償とする」とうたう。だがキャンペーン企画「子どもに明日を」の取材で知ったのは、制服代や学用品費などが貧困家庭の重荷となり、時には進学や通学の「壁」にすらなっている現状だ。
日本の国内総生産(GDP)に占める学校など教育機関への公的支出の割合は3・5%にとどまり、経済協力開発機構OECD)加盟国で比較可能な32カ国中、最下位だ。日本は世界3位の経済大国で、少子化対策を国の最重要課題に挙げているにもかかわらず、子どもに費やす予算は他国と比べれば大きくはない。
中間所得層が厚く、「1億総中流」と呼ばれた時代もあったが、今では経済格差が広がって子どもの6人に1人が貧困状態で、九州はさらに深刻だ。連載でも3万5千円の制服代が支払えず、入学式を欠席した中学生を紹介した。金銭的な理由で義務教育や高等教育から脱落する子どもが増えているのではないか。
憲法26条は空文化していないか。教育現場を歩きながら問い掛けたい。
(子ども問題取材班)

日本国憲法第26条

  1. すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
  2. すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。