言わねばならないこと(68)改憲に「震災」使うな 弁護士・小口幸人氏 - 東京新聞(2016年3月7日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/himitsuhogo/iwaneba/list/CK2016030702000133.html
http://megalodon.jp/2016-0307-0953-11/www.tokyo-np.co.jp/article/feature/himitsuhogo/iwaneba/list/CK2016030702000133.html

政府・与党は憲法解釈を変えて安全保障関連法を成立させた一方で、明文改憲の道を進もうとしている。九条という本音を言わずにやる「お試し改憲」のテーマの一つとして言いだしたのが、大災害や戦争が起きた時、政府の権限を強化する緊急事態条項の新設だ。東日本大震災を経験した国民に、災害と言えば受け入れられると考えたのかもしれないが、的外れで、被災地をダシにするなと思う。
震災が起きたとき、弁護士の過疎地への派遣で岩手県宮古市で働いていた。被災自治体の首長が情報を集約し、自衛隊や中央省庁に指示を出していた姿が忘れられない。災害時に最も必要なのは、現場に権限を下ろすことだ。市町村長のレベルで判断し、国はその判断を尊重して動けばよい。
自民党改憲草案は、首相の緊急事態宣言により、内閣が法律と同じ効力を持つ政令を制定できることやすべての人が国の指示に従わなければならないことを定めている。あらゆる権限を内閣が吸い上げて決定するためで、被災地で必要なものとは全く逆だ。それどころか、乱用されて人権が侵される恐れさえある。
日本の災害法制は世界的にも優れている。震災で多くの人が亡くなった事例は、国家緊急権があったとしても防げたわけではない。大切なのは事前の準備。何かが起きてから緊急事態を宣言し、慌てて内閣が政令をつくって、どうなるものではない。
災害時に国会議員の任期を延長するのに改憲が必要との声もあるが、憲法はそのままで選挙制度を変えれば対応できる。憲法をいじりたいから、と始まった話で、まじめに考えているとは思えない。 (小林由比)
おぐち・ゆきひと> 1978年生まれ。東日本大震災後、避難所での相談や被災者支援。日弁連の災害復興支援委員会幹事。