(筆洗)主人公が死んでも、あまり後退せずにやり直せるよう心がけていた - 東京新聞(2016年3月6日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016030602000128.html
http://megalodon.jp/2016-0306-1204-44/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016030602000128.html

「主人公が死んでも、あまり後退せずにやり直せるよう心がけていた」という。世界的人気ゲームソフトの「ドラゴンクエスト」。今年はシリーズ第一作の発売から三十年。シナリオとゲームデザインを担当してきた堀井雄二さんが最近のインタビューでそんなことを語っていた。
せっかく続けてきたのにたった一回の「悲劇」で振り出しに戻るようなことはしない。つまずいた場所から、ほどなく再スタートできる。「ドラクエ」の人気はやり直しの易しさ=優しさかもしれない。
厳しい現実社会だが、優しきリセットはゲームの世界だけではなかったようだ。その思いやりある判断に心が躍る。国際オリンピック委員会(IOC)はリオデジャネイロ五輪に難民選手チーム「難民五輪選手団」を参加させることを決めた。
五輪初の試み。二百六カ国・地域の選手団と同じ扱いとなる。紛争などで母国を離れた才能ある競技者が五輪選手として再スタートを切ることができる。
シリア出身でドイツにいる女子水泳選手、コンゴ(旧ザイール)出身でブラジルに暮らす男子柔道選手らが候補に挙がる。
国旗も国歌もない。されど選手団の出場は、難民の方々にとって悲劇に負けずやり直せる勇気の証しにもなる。そのユニホームは希望。シューズは不屈。そしてゼッケンは平和への願いであろう。応援したいチームがもう一つできた。