メルトダウン これで原発回帰とは - 東京新聞(2016年3月1日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016030102000148.html
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原発非常事態のマニュアルの存在に、五年もの間誰も気づかなかったとは−。いずれにしても、ずさんとか不注意とかでは済まされない。安全と人命の軽視。原発回帰を考え直させる重大事である。
故意にせよ、不注意にせよ、なぜ“隠し事”が続くのか。
福島原発事故では当初から、核燃料が溶け落ちる、炉心溶融メルトダウン)の恐れが指摘されていた。
東京電力の「原子力災害対策マニュアル」では、核燃料の損傷の割合が5%を超えれば、炉心溶融と判定することになっていた。
3・11から三日後の十四日には格納容器の中の放射線量を測定する装置が回復し、その日から翌十五日にかけて、1号機から3号機まで、それぞれ55%から30%の損傷が推定される状態だった。
東電は「明確な定義がない」として、五月までメルトダウンを認めなかった。
ところが定義はあったのだ。
同じ東電柏崎刈羽原発を有する新潟県に求められ、探したら、見つかったという説明だ。五年は長い。「気づかなかった」で済まされる話ではないだろう。
メルトダウンが進むと、溶け落ちた核燃料が格納容器壁を破り原子炉の外にあふれ出るメルトスルーに至り、重大な核汚染を招く。
すぐに強い警告を発していれば、対策や避難の仕方も変わっていたにちがいない。
原発事故の過小評価は、安全の、生命の過小評価にほかならない。
東京電力だけではない。福島原発事故の前、中部電力浜岡原発東北電力女川原発でも、定期検査で見つかった損傷の報告を怠ったことがある。
北陸電力志賀原発で一九九九年に発生した臨界事故は、長い間、明るみに出なかった。
高速増殖原型炉もんじゅのナトリウム漏れ事故の際、旧動燃は、現場を撮影したビデオの一部を故意に公開しなかった。
原子力業界は、何を恐れて情報を出し渋るのか。
再稼働直前に水漏れ事故を起こした関西電力高浜原発4号機に、福井県の西川一誠知事は「安全を最優先に情報公開を徹底し…」と注文を付けた。
当然のことをそこで言わねばならないところに、原発問題の根っこの一つはある。
情報公開の徹底なくして、原発再稼働はありえないはずなのだ。