司法と住民 地域間格差をなくそう - 毎日新聞(2016年2月18日)

http://mainichi.jp/articles/20160218/ddm/005/070/035000c
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中規模の都市を中心に配置されている裁判所支部の活用を拡大することが、最高裁と日本弁護士連合会の協議で決まった。
主に県庁所在地都市に置かれている地方裁判所家庭裁判所の本庁50カ所以外に、全国には203カ所の支部がある。だが、裁判官が常駐していなかったり、扱える事件が限定されていたりするため、住民にとって利用しづらいのが現状だ。
全国どこに住んでいても法的に紛争を解決できる手段が確保されることは大切だ。裁判所支部の活用拡大を、地域住民にとって司法を身近なものとする一歩にしたい。
裁判官が常駐していない場合、別の裁判所から裁判官が出張してくるため、月に数回しか開廷されない。このため、審理される期日の間隔が空き、訴訟や家事調停などによる解決が遅れる傾向にあるという。
また、重要な案件を慎重に審理するため裁判官3人で担当する合議事件は、小規模な支部では取り扱われない。近くに支部がある人たちでも、数時間かけて県庁所在地まで出かけることを余儀なくされている。
事件数が少ないなどの理由で支部の統廃合が進められてきた経緯がある。ただし、時間的、労力的に裁判所との距離が遠くなれば、司法の場での紛争解決をあきらめることにつながりかねない。
憲法で保障された「裁判を受ける権利」に照らしても問題がある。近年、弁護士を中心に改善を求める声が強まっていたのは当然だろう。
今回、最高裁日弁連の協議で決まったのが、労働審判の実施支部拡大だ。本庁以外は、2支部でしか実施されていないが、来年4月から新たに3支部を加える方向だ。
労働審判は、解雇や賃金の未払いなどの労働紛争が対象で、裁判官1人と労働問題に詳しい一般人2人が調停と審判に携わる制度だ。審理は迅速で解決案に異議があれば訴訟に移行するが、約8割の事件が3カ月以内に解決している。使い勝手の良さが評価され、2006年の制度導入以来、利用件数は増え続け、申し立ては年間3000件を超える。
ブラックバイトをはじめ、労働をめぐるトラブルの迅速な解決は社会的要請であり、実施する支部の一段の拡大を望みたい。
この他、市民の要望が強い複数の支部で、別の裁判所からの裁判官の出張回数を増やす。また、近ごろ増加傾向のストーカーや配偶者間暴力(DV)など緊急的な事件への対応も、臨時の出張で対応する。司法の対応遅れが命に関わることもある。市民にとって切実な司法による紛争解決の手段については、今後もさらなる充実を図ってもらいたい。