東西教会の対話 紛争の抑制に期待する - 毎日新聞(2016年2月17日)

http://mainichi.jp/articles/20160217/ddm/005/070/050000c
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キリスト教会が東西に分裂してからほぼ10世紀ぶりに、和解に向けた大きな一歩を踏み出した。
世界に約13億人の信徒がいるカトリック教会の頂点に立つフランシスコ・ローマ法王と、東方正教会で最大の1億人以上の信徒を抱えるロシア正教会のキリル総主教がキューバで会談した。歴史的に対立してきた両教会の「トップ会談」は史上初めてのことである。
違いを超えて和解を目指す歩み寄りを生んだのは、中東のシリア内戦やウクライナをめぐる米露の対立など、袋小路に陥った国際紛争に対する危機感を両者が共有したからだ。
シリアでは過激派組織「イスラム国」(IS)に立ち向かう連携体制どころか、アサド政権を支援するロシアと反体制派を支援する米欧が対立を深める中で、空爆による死傷者や住居を失った避難民が増え続けている。ウクライナでも、停戦合意の実現が足踏みしたまま米露の対立が続いている。
両教会のトップは会談後の共同宣言で、互いの歴史的対立克服への努力を誓う一方で、国際社会に対しても、シリアの犠牲者を救う緊急行動と、暴力やテロを根絶し、対話を通じた平和回復への貢献を求めた。ウクライナでは、対立する当事者に忍耐と連帯、平和構築への行動を呼びかけ、ウクライナの全教会に社会調和を目指す行動を求めた。
宗教界の役割は政治に介入することではない。しかし、現実に対するこうした危機感の表明が、紛争の解決へ当事者の努力を促す後押しになることを期待したい。
欧州の古代ローマ帝国で広まったキリスト教は、帝国の東西分裂後、西の拠点ローマと東の拠点コンスタンチノープル(現トルコ・イスタンブール)に分かれて対立するようになり、1054年の「相互破門」で両教会の分裂が決定的になった。背景にある文化や教義、教会組織の形態も異なる。
和解に向けた対話が実現した背景には、2013年の就任後、貧者に寄り添う姿勢で共感を集め、イスラム教など他宗教との対話や、欧米と対立するロシアや中国への働きかけを熱心に進めてきたフランシスコ法王の国際平和への取り組みがある。米国とキューバの国交回復でも仲介役を果たしたとされる。対ISで国際協調を呼びかけたフランシスコ法王と、国際社会での孤立を脱却したいロシアのプーチン政権の思惑が合致したという側面もある。
もちろん宗教は万能ではない。それでも対話と和解の精神を共有することこそが困難を克服する出発点だというメッセージが、紛争当事者に届くことを祈りたい。