(私説・論説室から)核兵器を持てば安心か - 東京新聞(2016年2月17日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2016021702000148.html
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北朝鮮が核実験に続いて、事実上の長距離弾道ミサイルを発射した。二年半前に訪朝した時、案内人が「わが国は核抑止力を持つから、米国の核を恐れる必要はない。人民は安心して暮らせる」と言ったのを思い出した。
米国と韓国が朝鮮半島の南側で合同軍事演習を実施すると、北朝鮮の軍隊は一斉に警戒態勢を敷く。以前は米韓演習の時、農場や工場、学校でも防空、避難訓練が行われ、仕事や勉強も手に付かないほど緊張を強いられた。今も訓練はあるが、工場は稼働し学生も勉学に励めるという。それも「核保有国になったからだ」と力説した。
北朝鮮を逃れて来た脱北者の考えは全く異なる。韓国統一省の元高官に聞いたら、食糧事情は改善したようで逃亡理由に飢餓を挙げる人はほぼいなくなったが、多くが「北朝鮮には未来がない」と断言するという。
国家からの配給が途絶え、皆が市場の売買で何とか生きている。労働党の幹部にコネがないと、仕事も進学もうまくいかない。軍人は賄賂を要求するか、農場から食糧を奪っていく−。韓国の元高官は脱北者らの証言を紹介し、「外の世界を知ると、祖国との落差に衝撃を受けるのだろう」と語った。
北朝鮮では核やミサイルをたたえる集会が盛んに開かれている。動員された国民が歓呼の声を上げるが、胸の奥底にあるのは、安心なのか、不安だろうか。 (山本勇二