(余録)「雰囲気」をパソコン入力しても… - 毎日新聞(2016年2月16日)

http://mainichi.jp/articles/20160216/ddm/001/070/180000c
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「雰囲気(ふんいき)」をパソコン入力しても漢字変換できないという人がよくいる。それもそのはず「ふいんき」と入力するためで、漢字を知りながらも「ん」と「い」を逆に発音している人が少なくないようだ。
この手の音の逆転でできた言葉に「だらしない」がある。元は「しだらない」が正しい言い方で、この「しだら」、サンスクリット語で秩序を指すとか、逆に自堕落(じだらく)が起源とか、擬態語のしどろから転じたとか諸説ある。「ふしだら」もこの言葉から生まれたそうだ。
いずれにせよ締まりがなく乱脈なことをいう「しだらない」である。語感をじっくり味わえば、いやでも頭をよぎるのがこのところの閣僚や与党議員の失態である。むろん口利き疑惑による甘利(あまり)明(あきら)前経済再生担当相の閣僚辞任がその最たるものなのはいうまでもない。
週刊誌報道をきっかけとした騒ぎでは、育児休暇を宣言した自民党の宮崎謙介(みやざきけんすけ)衆院議員の不倫スキャンダルによる議員辞職もひどかった。この騒動で溝手顕正(みぞてけんせい)自民党参院議員会長が「うらやましいと思う人もいる」と口をすべらせ、ひんしゅくを買ったのも情けない。
一方、国が定めた除染目標の被ばく線量に「何の科学的根拠もない」と仰(ぎょう)天(てん)講演をしたのは丸川珠代(まるかわたまよ)環境相で、発言撤回に追い込まれた。島尻安伊子(しまじりあいこ)沖縄・北方担当相が記者会見で北方領土の歯舞(はぼまい)の読み方を秘書官に教えられたのも、何とも締まりのない一幕である。
ルール違反あり、自堕落あり、しどろもどろあり−−緊張の緩みにもほどがある政権与党の「しだら」事情だ。もちろん責任の一端はこの有り様でも政権を脅かせぬ野党のだらしなさにある。