(筆洗)江戸時代の寺子屋の入門はだいたい六、七歳から - 東京新聞(2016年2月16日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016021602000126.html
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江戸時代の寺子屋の入門はだいたい六、七歳からで、二月の初午(はつうま)を選んで入門手続きが行われたそうである。今年の初午は六日だったので、もう過ぎてしまったが、ずいぶんと寒い時期を選んだものである。
「江戸の卵は1個400円!」(丸田勲さん・光文社新書)によると寺子屋に定額の入門料はなかったそうで、親の懐事情に応じて支払った。庶民なら、現在の四千〜六千円で、お金持ちで三万二千円前後だったという。親にとってはありがたい仕組みである。
現代のこの時期は私立大学の受験シーズンか。知人にその数字を聞かされ、そんなにかかるのかと正直震える。私大一校あたりの受験料はだいたい三万五千円。
十校も受ければ、三十五万円とは、当然の計算だが、受験生をまわりに持たぬわが身にとっては、しばし呆然(ぼうぜん)とする大枚である。無論、寺子屋の入門料とは異なり、家庭の財政事情など関係なく、一律三万五千円である。
受験料の正当性はともかくとして、受験生は英単語や数式に加えて、その数字も覚えておくべきであろう。<受験のいいところは、ひとりで生きているんじゃないと、知ることかもしれない。>。大手予備校の十年ほど前の広告コピー。一生懸命働いて三万五千円を用意し、愚痴もこぼさぬ誰かがいる。
入試には出ぬ。されど、人を思う「大人」という試験の一問目には必ず出題される。