(余録)日食での光の曲がりの観測によって一般相対性理論が… - 毎日新聞(2016年2月13日)

http://mainichi.jp/articles/20160213/ddm/001/070/162000c
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日食での光の曲がりの観測によって一般相対性理論(いっぱんそうたいせいりろん)が立証されたのは第一次大戦後だった。新聞社はあわてて物理の知識のある記者を探したが、米ニューヨーク・タイムズはゴルフ担当を、英ガーディアンは音楽記者を送り込むはめになる。
英タイムズに「相対性」の説明を求められたアインシュタインは言う。「今私はドイツではドイツ人科学者、英国ではスイス系ユダヤ人となっています。もし私が嫌われ者になったらドイツでスイス系ユダヤ人、英国ではドイツ人科学者ということになるでしょう」
ミチオ・カク著「アインシュタイン」から引かせてもらったが、この日食観測は一般相対性理論の最初の証明だった。今度の発見は最後の立証となりそうである。同理論でその存在が予言されながら今まで直接には観測できなかった「重(じゅう)力(りょく)波(は)」を初めてとらえたのだ。
重力波は光速で広がり……と、知ったかぶりで説明すれば100年前の記者にも失笑されよう。ここは13億光年のかなたのブラックホールの衝突で生まれた時空のゆがみ、つまり重力波が米国などの研究チームによって検出されたという記事を受け売りするしかない。
レーザー光を用いたその検出装置は重力波望遠鏡と呼ばれ日本でも建設中という。「望遠鏡による観測を始めたガリレオ以来の成果」。研究チームがこう胸を張ったのは、光などの電磁波による従来の観測では分からない宇宙の姿が重力波によって観測できるからだ。
「深く探求すればするほど、知らなくてはならないことが見つかる」。人生についてのアインシュタインの言葉だが、人類の知の運命もまた同じである。