選挙制度改革 多様な民意を削るな - 東京新聞(2016年1月15日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016011502000126.html
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衆院選挙制度に関する有識者調査会が改革案を答申した。議員定数を十減らし、四六五とするが、戦後最少の議席数である。多様な民意を反映させる民主主義の原点から見れば疑問も多い。
いわゆる一票の格差が前回の総選挙では、最大二・一三倍あった。投票価値に不平等があるのは明らかで、最高裁も「違憲状態」と判断している。二・一三倍の格差とは、ある選挙区とある選挙区を比べた場合だ。都道府県別だと、実は一・七九倍の格差だった。
「アダムズ方式」と呼ばれる方法を小選挙区で用いる今回の改革案が達成されたとしても、それが一・六二倍になるだけだ。小選挙区制を基本とする限り、一票の不平等を解消するには限界がある。小選挙区制の存廃も含めて、抜本的に見直すべきでなかったか。
さらに問題は議員定数小選挙区比例代表で計十議席減らすことだ。四百六十五議席となるが、一九四六年の議会のときは四六六あった。その後も増えて、八六年には五百十二議席になった。それと比べて、改革案は四十七議席も少なく、戦後最少となる。
戦前の帝国議会でも衆議院定数は四六六だったから、それよりも一つ少ない。そもそも日本より人口の少ない英国の下院では六五〇、フランスの下院も五七七、ドイツも五九八の定数がある。日本の議員数が多すぎるわけでは決してない。
議員は多様な民意を国会に反映させる役目を負う。定数を減らせば、その機能も減衰しよう。三権分立の原則から国会は行政府を監視する機能も持つが、その能力も低くなる恐れがある。議員立法の活動も、理屈上は低下することになる。選挙によって多様な民意をすくい取りにくくもなる。
「身を切る改革」をするならば定数の削減ではなく、約三百二十億円にものぼる政党助成金、二千万円を超す議員歳費、千二百万円の文書通信交通費、立法事務費などに手を付け、大きく削減すべきである。
議員一人に約七千万円の国費がかかるとされるが、その計算だと十人削っても約七億円にすぎない。政党助成金を各国比較すれば、ドイツは日本の約半分、フランスは約三分の一、英国は約百十分の一にすぎない。米国にはそもそも政党助成金の制度すらない。
多様な国民の声を犠牲にするより、政党や議員へのカネを真っ先に犠牲にすべきだと考える。