強姦逆転無罪 捜査過程の検証を - 朝日新聞(2016年1月14日)

http://www.asahi.com/paper/editorial.html?iref=comtop_pickup_p
http://megalodon.jp/2016-0114-0932-37/www.asahi.com/paper/editorial.html?iref=comtop_pickup_p

鹿児島市の路上で12年、当時17歳だった女性に性的暴行を加えたとして強姦(ごうかん)罪に問われた男性(23)に対し、福岡高裁宮崎支部は一昨日、懲役4年の一審判決を破棄し、逆転無罪を言い渡した。
判決は、捜査機関が立証に不利な証拠を隠そうとしていた疑いを指摘し、捜査のあり方を厳しく批判した。
鹿児島県警と検察は、捜査過程のどこに問題があったのか、徹底的に検証すべきだ。
「事件」が起きたとされるのは深夜2時過ぎ。男性は一貫して無罪を訴えていた。その夜は「酒に酔って記憶がまったくない」状態で、具体的に反証できぬまま2年4カ月間、勾留されていた。
無罪の決め手になったのは、控訴審で改めて行われたDNA型鑑定だった。女性の体内から検出された精子が、男性とは別人のものと判明した。
判決があきらかにした捜査の経過は、驚くばかりだ。
捜査段階で県警が実施したDNA型鑑定では、鑑定後、残ったDNA溶液を捨ててしまった。鑑定経過を記したメモも廃棄した。検察は独自のDNA型鑑定をするため、裁判所や弁護人には無断で、わずかに残っていた試料も使ったという。
判決はこうした行為の背景には「(鑑定で)有利な結果を得られなかった場合には、鑑定したこと自体を秘匿する意向」などがあったのではないかとまで踏み込んで批判した。
一連の捜査当局の鑑定に、明確な指針違反はないという。捜査当局の鑑定の舞台裏に迫るもう少し丁寧な説明が、判決に必要だった感は否めない。
ただ東電女性社員殺害事件など、過去の冤罪(えんざい)事件では、「証拠隠し」が繰り返されてきた。証拠資料は捜査側だけのものではない。無断で鑑定するという今回の検察のやり方について、判決は刑事裁判の原則である「当事者対等主義」に反すると批判した。当然だろう。
性犯罪は、目撃証言などが少なく、立証は被害者と被告の証言に頼りがちになる。今回は被害者の女性の証言に「虚偽」や「不自然な」点があると判決は認定した。事件として異例なケースではあろう。
ただし、防犯カメラの映像など、他の証拠と照らし合わせれば、女性の証言の不自然さには、捜査段階でも気づけたのではないか。性犯罪捜査で被害者への配慮は欠かせない。一方で被害者の証言のみで犯人を決めてかかる傾向はないか。判決はそんな問題も投げかけている。