<強姦事件>証拠を都合良く評価…弁護側、ずさん捜査を批判 - 毎日新聞(2016年1月12日)

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逮捕から3年余り。悲痛な無実の叫びに司法が応えた。12日、鹿児島市で当時17歳だった女性に暴行したとして強姦(ごうかん)罪に問われた男性(23)に逆転無罪を言い渡した福岡高裁宮崎支部の判決。「『(被害者の)供述頼りの捜査をしないように』と判決が促した。非常に意義がある」。弁護団の野平康博弁護士(鹿児島県弁護士会)は12日の判決後、宮崎市内で記者会見を開き鹿児島県警の捜査を批判した。【志村一也、杣谷健太】
県警を巡っては、冤罪(えんざい)を招いた2003年4月の鹿児島県議選を巡る公職選挙法違反事件(志布志(しぶし)事件)で自白偏重の捜査が問題視された。野平弁護士は「志布志事件は有罪と決めて積極証拠のみを集めたために起きた事件。今回の事件も同様で、無罪の可能性はないかと消極証拠を集めていれば、結果は違ったかもしれない。供述証拠を検討する仕組みを作るべきだ」と訴えた。
今回の1審判決は捜査側のDNA型鑑定に寄りかかって有罪を導いた。型は誰のものか特定できなかったが精液は検出されたとする内容。主任弁護人の伊藤俊介弁護士(鹿児島県弁護士会)は「精液が検出されたことを(被告の精液であるかのように)都合良く評価した」と批判。「1審の裁判所が正面から証拠認定に取り組んで判断していればここまで長く汚名を着せられることもなく、不信感を持った」と非難した。

◇被告男性「決めつけたのでは」
被告男性は苦悩の日々を振り返り「闘ってきて良かった。支えてくれた家族に『信じてくれてありがとう』と伝えたい」と笑うと父母と握手を交わした。
「被告人は無罪」。午後1時半過ぎ、法廷に岡田信(まこと)裁判長の声が響いた瞬間、男性は2度頭を下げた。判決理由の読み上げが続く中、男性は涙を流しおえつが止まらない。閉廷後、宮崎市内の法律事務所で父(59)と母(53)から「良かったね」と言われると目を赤らめながら「ありがとう」と話し、父や母の手を両手で握りしめた。その後の記者会見で「支えてくれた皆に感謝の気持ちでいっぱいです。裁判官の方々にも、総合的に判断していただけた」と語った。
「話を聞かせてもらいたい」。2012年11月15日早朝、鹿児島県警の捜査員が突然自宅を訪れた。当時の交際相手と同居を始める約束をしていた日で、引っ越し準備を阻まれた。
事件があったとされるのは約1カ月前の同年10月7日午前2時過ぎ。前日夜アルバイト先の飲食店で同僚の誕生日会を開いた。シャンパン、ビール、焼酎を5時間以上飲み続け、7日午前1時半にシャンパンを空けたところから記憶が無い。
「酒に酔っていて覚えていない」。逮捕後の取り調べで何度も訴えた。「お前が犯人だ」と繰り返し、聞く耳を持たない県警の取調官。「認めればすぐに出られるよ」。そんな言葉に気持ちが揺らいだが「証拠もないのに認めてはいけない」。そう言い聞かせた。
裁判が進むにつれ「無罪」の確信は深まった。被害者は自分が自転車に乗りながら強引に手を引っ張って連れていかれた−−と訴えるが、体格はほぼ同じ。泥酔した自分にそんな強引なことができるのか。しかも強姦したとされる現場は固いアスファルトの上。だが、被害者にけがはなく衣服にも傷はない。そんなことがあり得るのか。
1審は懲役4年の実刑。交際相手に手紙を出した。「別に好きな人がいるなら付き合ってもいいよ」。裁判は長引いており「待たせるわけにいかなかった。そう言える立場でもなかった」。
約1年後の昨年2月、拘置所の面会室で弁護士が興奮して切り出した。「プレゼントがある」。DNA型の再鑑定で被害者の体内に残された精液から別人の型が出ていた。「これまで闘って本当に良かった」と胸をなで下ろした。翌月保釈され、祝ってくれた両親や友人に囲まれながら思った。「何気ない普通のことが幸せなんだ」
かつての交際相手とは今も付き合いはあるが、「交際相手ではなく友達」だ。県警の捜査によって描いた夢はゆがめられた。「きちんと捜査していれば初めから簡単に分かったはず。犯人と決めつけていたのではないか。もう二度と同じような思いをする人を出してほしくない」と力を込めた。【志村一也、杣谷健太】