(筆洗)デビッド・ボウイが死んだ - 東京新聞(2016年1月12日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016011202000135.html
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年末のロックコンサートで初めての体験をした。開始後、四十分ほどだったか、トイレ休憩の時間が用意された。ムーンライダーズはちみつぱいなどの鈴木慶一さん(64)のコンサート。ロックという若さを一種、商品化した音楽ジャンルと、中高年を気遣ったトイレ休憩の組み合わせが何とも妙だが、このトイレ休憩が小欄を含めどれだけありがたかったか。ロックアーティストも観客も年を重ねた。
デビッド・ボウイが死んだ。六十九歳。がんと闘っていたのか。ファンには、つらい一日となっただろう。
高い音楽的先進性、ファッション、演劇性。五十年近い活動によってロックをアートの領域に引き上げた人である。
<チェンジ。見たこともない物から目をそむけるな>。代表曲「チェンジズ」(一九七一年)にこんな詞がある。変化や革新性こそロックの本質と見抜いていた。
少年期に夢中になったロック歌手の死や老いが受け入れがたいのは「あの時」のままでいてという願いからか。英語でロックとは「揺さぶる」の意。強く揺さぶられた分、ふといなくなるとおきざりにされた気分にもなる。
スペイス・オディティ」(六九年)は消息を絶った宇宙船の歌。地上管制塔が何度も呼びかける。<トム少佐、応答せよ>。応答はない。ボウイも宇宙へ旅立ったか。<応答せよ、願わくばもう一度、地球に落ちて来て>

「チェンジズ」(1971年)

スペイス・オディティ」(1969年)