教科書の選定 水面下で何をしている - 東京新聞(2016年1月9日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016010902000148.html
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ひょっとすると、ぐずぐずに腐ってはいないか。公立小中学校を舞台とした教科書の売り込み合戦である。水面下で金品が飛び交うありようは、汚職を連想させてならない。うみは出し切らねば。
三省堂と同様の不祥事が、東京書籍や数研出版でも発覚した。教科書業界全体に広がりそうだ。
文部科学省に検定申請中の中学校教科書を教員らに見せたり、意見を聞いた謝礼として現金や図書カードを提供したりしていた。
東京書籍は招いた教員らの宿泊費や交通費も負担していた。数研出版教育委員会の教育長をふくめて中元や歳暮も贈っていた。
恒常的な利益供与を疑われても仕方あるまい。教科書づくりの知恵を借りるという方便のもと、採択での有利な取り計らいを働きかけていなかったか。
公立小中学校の教科書を選ぶ権限は、地元教委にある。教科指導の実績のある現場の教員は、選定資料をつくる調査員を託される可能性が高い。これら一連の職務に携わる人たちは公務員である。
三省堂は検定中の教科書を校長ら五十三人に見せ、それぞれに五万円の謝礼を支払っていた。このうち二十一人はその後、地元での教科書選びにかかわっていた。
構図は贈収賄そのものといえる。会社側も教員側も、倫理観の欠如ではすまされない面がある。
手続きの公正を守るため、文科省は検定中の教科書情報を外部に知らせることを禁じている。圧力や干渉を防ぐねらいである。 
検定過程の透明性をどう高めるかという課題も残るが、不祥事の根っこは採択に向かって伸びている。これをどう断ち切るか。
少子化に伴い市場は縮小している。四年に一度の選定を勝ち取れるかは、教科書会社の命運を左右するといわれる。業界のたがが緩みがちになる大きな要因だろう。
教育現場の実情に適した教科書をつくり、中身を競い合う。そのためにも、会社側と教員側が意見を交わす場の確保は大切である。
しかし、もはや問われているのは、水面下の浄化の仕組みをどうつくるかではないか。不正行為に対しては、採択機会の剥奪といった厳しさも欠かせまい。
教委にも注文がある。教科書の採択理由を公表している市町村教委は五割、都道府県教委は三割にすぎない。情報公開を積極的に進めるべきである。風通しが悪いと、腐敗の温床になりかねないことを自覚してほしい。