感じるブラジル@TOKYO(2) 多様な社会映す映画祭:東京 - 東京新聞(2016年1月3日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/list/201601/CK2016010302000096.html
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昨年十月末、港区の六本木ヒルズ東京国際映画祭の授賞式があった。欧米や日本の作品がひしめく中、コンペ部門の最高賞に選ばれたのは、ブラジル映画「ニーゼ」だった。一九四〇年代の精神科病院を舞台に、患者への非人道的な治療がまかり通る現状を目の当たりにして、芸術療法を取り入れるなどして、医療現場を変えた実在の女医を描いた。
実話や社会問題を取り上げたブラジル映画は、世界で高く評価されている。スラム街の少年らの血で血を洗う抗争劇を壮絶に描いた「シティ・オブ・ゴッド」(二〇〇三年公開)は各国で高い評価を受け、日本の映画専門誌「キネマ旬報」は同年の海外映画部門のベストテンに選んだ。
社会派の映画だけでなく、スポーツや音楽を題材にした作品、アニメなど多彩なブラジル映画を紹介する映画祭が二〇〇五年から毎年、都内を中心に開かれている。主催は企画制作会社「トゥピニキーン・エンターテイメント」(墨田区)。両親が日本人でブラジルで生まれ育ち、一九九〇年代に来日した川合健司さん(58)と田辺淳治さん(55)が経営している。
二人が九六年に設立した国際電話会社「ブラステル」は、日本で暮らす外国人が使う国際電話のシェア一位になるほど成長した。事業で成功した二人が「日本の人々にブラジルの文化を理解してもらえるように」と、始めたのが映画祭だった。川合さんと社員二人が中心となって運営し、最新の人気作を中心に数日間にわたって上映する。昨年四月に都内で開いた映画祭では、元刑務所職員の監督の作品などを上映、六日間で三千人を集めた。
ブラジル映画の魅力は何か。当地の映画事情に詳しい日本ブラジル中央協会の岸和田仁常務理事(63)は「さまざまな民族が入り交じった国柄が、映画に面白みを与えている」とみている。社会問題を取り上げた映画は、一九五〇〜六〇年代にかけて登場したという。五五年製作のスラムに住む少年たちやリオデジャネイロの庶民の日常を題材にした「リオ40度」を皮切りに、六二年には若い農夫の殉教の物語「サンタ・バルバラの誓い」がカンヌ映画祭でグランプリを受賞。ブラジル映画の国際的な認知度を高めた。
ただ、岸和田さんによると、ブラジルで上映される映画のうち、国産映画の割合は一割程度。米ハリウッドをはじめとした外国映画に押されているのが現実だ。日本での映画祭の広がりに手応えを感じている川合さんも「まだ熱心な一部の人にとどまっている。興味を引く努力が必要」と考えている。今後は、広報活動にもっと力を入れるつもりだ。
「経済交流だけでは、日本とブラジルがつながっているとは言えない。文化のおもしろい部分を理解し合ってこそ本当のつながりになる。いつかはブラジルで日本の映画祭を開きたい」と、川合さんは将来を見据えた。(酒井翔平)
ブラジル映画祭> 2005年から始まり、初回は東京日仏学院(新宿区)で、ブラジルの上流階級と労働者階級の貧富の格差問題を描いた「レデントール」など長短編映画11作品を上映した。これまでに東京、愛知、福岡、石川、大阪、静岡、京都の7都府県で開催。期間中には、現地の映画監督などを招いたトークショーも行い、ファンとの交流の場にもなっている。ブラステルやブラジル外務省などがスポンサーに名を連ねる。

ブラジル映画「ニーゼ」

シティ・オブ・ゴッド」(2003年公開)