(私説・論説室から)恩義は生きる時が来る - 東京新聞(2015年12月23日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2015122302000166.html
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ドイツの難民受け入れ現場を取材した。報じられてはいたが、これほどまでとは思わなかった。難民たちからの、ドイツに対する感謝と称賛だ。
メルケル首相は、ハンガリーなどで冷たい仕打ちを受けていた難民の積極的受け入れを表明し、ドイツの市民らは、難民の世話を焼くため奔走している。
シリア人男性難民は「メルケルは私たちのマザーだとみんな言っている。ドイツ人は誠実だ」と流ちょうな英語でまくし立てた。アフガニスタン男性難民は「自分たちの国には学校も教育システムもない。大統領は国に戻れと言うが、絶対に嫌だ」と語気を強めた。
ドイツ人も難民に好意的な人ばかりではない。難民は今後、差別などで嫌な思いをすることもあるだろう。しかし、戦火を逃れ、つらい思いをしている時に助けてもらった恩義を、忘れることはないはずだ。
難民の中からもテロリストや犯罪者が出てくるかもしれないが、不心得者に対してはまず、難民社会が怒りの声を上げるだろう。
難民の世話をするドイツ人を手伝うため、通訳などを買って出る難民もいる。ドイツが危機に陥った時には、難民が力になってくれるに違いない。
難民を受け入れる負担は重いが、今回のことでドイツは大きな力を得る、と確信した。              (熊倉逸男)