(余録)海に行く。波を怖がる子どもがいる。優しく… - 毎日新聞(2015年12月20日)

http://mainichi.jp/articles/20151220/k00/00m/070/102000c
http://megalodon.jp/2015-1220-1029-14/mainichi.jp/articles/20151220/k00/00m/070/102000c

海に行く。波を怖がる子どもがいる。優しく手を引いて誘う。しばらくすると、楽しくて海から出てこなくなった。カップうどんと親子丼しか箸をつけない偏食の子は、海の家でラーメンを食べた。
障害のある子を支援する「ベストサポート」(千葉市若葉区)は竹嶋信洋(たけしま・のぶひろ)さん(39)が4年前に開設した。社会福祉法人で働いていたが、末期がんの父と一緒に起業するため手続きが簡単な株式会社にした。父は会社ができた1カ月後に亡くなった。
障害のある子はとかく体験が少ない。聞いてみると、海を知らない子が7割もいた。たしかに海で安全を守るのは大変だ。それでも楽しいことをさせたくて、船をチャーターして海上から花火を見た。海外旅行にも連れて行った。
活動を支えるのは平均年齢30歳という職員たち計36人だ。童顔の女性(22)は1年前に入社した。中学卒業後、朝から深夜まで保育施設と居酒屋で働いた。父の残した1000万円の借金を払うためだ。7年かけて完済し、どうしてもやりたかった福祉の仕事に飛び込んだ。
今、福祉現場は人手不足にあえいでいる。大学で福祉を学んでも別の職業を選ぶ人、すぐに離職する人は多い。現場が必要とするのは知識よりコミュニケーションや問題解決の能力、思いやりや協調性と言われる。人材の需給でミスマッチが起きているのだ。
3年前に入社した女性(25)は中学生のころ親から虐待され、自分で児童養護施設に助けを求めた経験を持つ。生活困窮や虐待という厳しい環境で育ちながら優しさを失わない若者はいる。苦労したからこそ学歴や資格では得られないものを持っている。