夫婦同姓は合憲 国会は見直しの議論を - 毎日新聞(2015年12月17日)

http://mainichi.jp/articles/20151217/k00/00m/070/165000c
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この判決が、国会の現状にお墨付きを与えたと解すべきではない。
最高裁大法廷は、民法の夫婦の別姓を認めない規定を「合憲」、離婚後の再婚を女性だけ6カ月間禁じる規定を「100日を超える部分は違憲」と判断した。
ともに明治時代から続く規定だ。夫婦別姓を認めない規定について大法廷は「姓を改める者がアイデンティティーの喪失感を抱いたり、女性が不利益を受けたりする場合が多いことが推認できる」としつつ、「姓の通称使用が広まることで一定程度は緩和され得る」と指摘した。

裏返せば一定程度の不利益は甘受しろ、ということだろうか。こうした主張が、特に女性の理解を得られるのかは極めて疑問だ。
判決は、立法府である国会での議論を促した。同姓と併せ、「各自の結婚前の姓」を選べる選択的夫婦別姓制度についても「合理性がないと断ずるものではない」と言及した。
家族のあり方は、国民生活の基礎になる。国会は国民の声も聞きながら、本腰を入れて法律の見直しの検討を始めるべきだ。
夫婦同姓を定めたのは、1898年に施行された旧民法だ。「妻は婚姻により夫の家に入る」との家制度が背景にあった。第二次大戦後、家制度は廃止されたが、夫婦同姓の規定は残った。現在の民法は、婚姻の際、「夫または妻の氏を称する」と定める。中立的な規定だが、実際には夫の姓を選ぶ夫婦が約96%だ。
女性の社会進出が進み、「姓を変えない自由も認めてほしい」と訴える女性が出てきた。法制審議会は1996年、選択的夫婦別姓制度を導入する民法改正案をまとめた。だが、長く与党として政権を担当してきた自民党内には「別姓は家族の一体感を損なう」との反対論が強く、議論は棚上げされてきた。民主党政権下でも動かなかった。
家族が社会を構成する大切な単位であることは間違いない。だが、姓が異なることで家族のつながりが揺らぐという考えには同意しがたい。
婚姻届を出さない事実婚も増えているが、家族の一体感が損なわれているわけではない。夫婦が同姓であっても離婚は毎年20万件以上ある。
結婚するカップルの3割弱はどちらかが再婚だ。未婚やシングルマザーも増えている。時代は変化し、家族のかたちは多様化している。
改めて確認したいのは、選択的夫婦別姓制度は、同姓を選びたい夫婦の意思も尊重するということだ。毎日新聞が今月実施した世論調査では、選択的夫婦別姓制度が認められた場合も「夫婦で同じ名字」を選ぶと考えている人は73%に上り、「別々の名字」は、13%にとどまった。
意に反して妻の姓に変える夫も含め、別姓を望む少数者の人権は尊重されなくていいのか。この問題の本質はまさにそこにある。
判決が「婚姻の際に姓の変更を強制されない自由は、憲法で保障される人格権とまではいえない」と判断したのは残念だ。
15人中5人の裁判官は違憲と判断した。3人の女性裁判官はいずれも違憲だ。その3人が「96%の女性が夫の姓を称するのは、女性の社会的経済的な立場の弱さ、家庭生活における立場の弱さであり、現実の不平等と力関係が作用している」と、個別の意見を述べた。社会全体、特に男性は重く受け止めるべきだ。

  • 再婚禁止期間も不合理

女性の半年間の再婚禁止も明治時代に作られた規定だ。判決が「100日を超える部分」を違憲としながら、「100日の再婚禁止期間は合理的だ」と判断したのは疑問だ。
この規定は、女性に離婚直後の結婚を認めた場合、すぐに生まれた子供が前夫の子か現在の夫の子か推定が難しくなることが理由だった。前夫の子を妊娠していないとはっきりするまでは再婚すべきではないという考え方も背景にあった。
だが、現在では科学の進歩などで父親の特定は可能だ。科学的な鑑定が家族を決定づけるすべてではないが、女性だけが長期間待たされる根拠は薄くなっている。
判決では多くの裁判官が「離婚後100日以内であっても、父親の推定が重複するケースは限られている」と指摘した。ならば女性全体に必要以上の制約を強いる規定は廃止するのが筋ではないか。
民法は別の規定で「離婚後300日以内の子は前夫の子」と定める。夫の暴力から逃げている女性に別の男性との間の子供ができた場合、この嫡出推定を避けるため出生届を出さず、子供が無戸籍に陥る問題が最近、クローズアップされている。
民法の見直しでは、その問題の解決策も併せて議論すべきだ。
国会の責任は大きい。家族の問題は、伝統や慣習、国民意識などを抜きに制度変更するのは難しい。だが、法制審の提案から19年間議論をたなざらしにしている間に、海外の多くの国が夫婦同姓規定や女性の再婚禁止期間の規定を見直した。
この間、この二つの規定について、国連の女性差別撤廃委員会などが繰り返し廃止を勧告してきたことも見過ごせない。国際社会の潮流も見据えて議論してもらいたい。