変わる家族 最高裁判決を受けて /1 「時代遅れ」原告落胆 棚村政行・早稲田大教授、林陽子弁護士の話 - 毎日新聞(2015年12月17日) 

http://mainichi.jp/articles/20151217/ddm/041/040/105000c

◆司法の役割を放棄
大胆な改正が必要 棚村政行・早稲田大教授(家族法)の話
民法改正は国会に委ねるという姿勢を強く打ち出した判決だ。これでは何のために大法廷で審理したのか疑問と言わざるを得ない。憲法の番人として、個人の人権を守る最後のとりでとしての司法の役割を放棄するに等しい、時代に逆行する判決だ。
働く女性が増えた社会で、結婚や出産をしても働き続ける女性を支援することにならない。家族に対する国民の意識が大きく変化している中、時代遅れの家族観や夫婦観に立つ民法は改正されなければならない。現行の夫婦同姓の原則を司法が支持したことで、国会での改正の議論が滞らないかが心配だ。
1996年の法制審議会の民法改正提案を19年間も放置してきた立法府の怠慢を違法と判断しなかった点も誠に残念だ。
一方、再婚禁止期間をめぐっては、憲法違反を初めて認めた最高裁判決として評価できる。しかし、100日を超える部分のみを違憲と判断したに過ぎず、大きな課題も残した。日本では、家族法をめぐる法改正が進まない。時代遅れの再婚禁止期間を廃止し、父子関係をめぐる民法の規定について、思い切った改正をすべきだ。
◆議論終わりでない 国連女性差別撤廃委員会委員長の林陽子弁護士の話
海外のほとんどの国は夫婦同姓を強制しておらず、最高裁の判断は古色蒼然(そうぜん)で残念だ。多数意見は平等概念を極めて形式的に捉えている。アイデンティティー喪失などの不利益が通称使用の広がりで緩和されているというが、そうせざるを得ない実質的不平等を踏まえ判断すべきだった。人権侵害から個人を救うのが司法の役割で、救済を求めてきた当事者に国会の立法で解決しろと言うのは役割放棄ではないか。
15人の裁判官の中で女性裁判官3人全員が合憲判断に反対したのは希望の光だ。社会や地域で女性の活躍する場が増えること、意思決定の場に女性の参画が増えることは、差別のない社会に変えていく力になると感じた。再婚禁止期間をめぐり100日を超える部分について違憲と判断したことは評価する。ただ、本来は短縮ではなく撤廃すべきで、物足りなさが残る。
いずれの問題についてもこの最高裁判決で議論が終わるわけではない。来年2月に国連女性差別撤廃委員会が日本の報告書を審査する。「女性活躍」を掲げるのに、なぜ別姓を法制化できないのか、日本政府は国際社会に説明すべきだ。