(筆洗)幕末期、江戸の治安は乱れに乱れ、追いはぎが夜な夜な出没したそうである - 東京新聞(2015年12月13日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2015121302000125.html
http://megalodon.jp/2015-1214-0942-31/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2015121302000125.html

幕末期、江戸の治安は乱れに乱れ、追いはぎが夜な夜な出没したそうである。
その時代を描いた落語の「蔵前駕籠(くらまえかご)」。追いはぎが出ようとも駕籠で遊びに出かけたいという男と、駕籠屋さんの意気。こんなクスグリ(本筋とは関係なく軽い笑いをとる話)がある。
追いはぎが迫る。「身ぐるみ脱いで置いてまいれ」。仕方なしに脱ぐと「誠に殊勝である。寒い時でもある。襦袢(じゅばん)(肌着)だけは許してやるぞ」。「ありがとうございます」。「…なんて礼を言うが、よく考えてみれば、てめえ(自分)の物。気が動転しているからこういうことになる。襦袢(自慢)にならぬってえのはここからきた」
冷静に考えれば、これもやっぱり「てめえ」のカネではあるまいか。再来年四月の消費税率10%に引き上げ時に導入する軽減税率で与党が合意した。対象は食品全般。生鮮食品と加工食品は8%のままである。「ありがたい」とおっしゃるかもしれぬが、そもそも、10%への引き上げがなければ、礼なんぞ言うこともない話ではないか。
財源は約一兆円。社会保障制度の維持、財政健全化のために10%引き上げが必要と言いながらのこの額である。引き上げ慎重派から見ても、政府と与党の対応は整合性に欠けており、その分、怪しげである。
参院選も近い時期である。食品全般は許してやるぞ」。「ははっ」では、襦袢にならぬ。